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ア ン コ モ ン   ライフ
uncommon life
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 人気のなくなった工場に、入り口の扉の開く音が響き渡る。
 田所がそちらをみると、そこに立っていたのは仰木高耶だった。
(おっと……?)
 彼は静まりかえった工場内をぐるりと見回してから、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「橘は」
「えーと……いま仮眠室にいるんで、起こしてきますね」
 田所が立ち上がると、
「ならいい」
と帰ってしまいそうになったから、 田所は慌てて引き止めた。
「あ、でももう5分もしたら起こさないといけないんで」
 時計を確認するとまだ少し早いが、どうせうなされて休めてはいないだろうから、起こしに行ってあげたほうがいい。
 ところが仰木高耶は、手近にあった椅子を引くと、
「なら、時間まで待つ」
と言って、座ってしまった。
「………わかりました」
 そう答えて再び席についた田所は、しばらくの間PCに向かってはみたのだが。
(沈黙が重い)
 何故だか背中のあたりに妙なプレッシャーを感じる。
 これも邪眼のせいだろうか。
 何か会話会話、と探してみるが、思いつくのは共通の知人(?)であるあの男のことしかない。
 田所は、身体は画面に向けたまま話しかけた。
「橘さんて、おもしろいひとですよね」
「………そうか?」
「悪党のくせに真面目なとこがあって」
 そう言ったら、同感を得られたのか、仰木高耶は小さく微笑った。
 調子に乗って、更に言葉を続ける。
「どれくらいの付き合いなんですか?」
 軽い気持ちで聞いたのに返事を貰えないので振り返ると、仰木高耶は何故か無表情になってしまっている。田所は慌ててフォローを入れた。
「あの、ヘンな意味じゃなく……えっと、期間、期間です。知り合ってからはもう、長いんですか」
「………数えたことないな」
 仰木高耶は頬杖をついて、近くにあった書類を手に取った。
───そっけねぇ)
 まあ、何月何日が出会って何ヶ月記念♪とかって言ってもらえる訳はないけれど、もうちょっと気持ちのこもった言葉が聞きたかった。
 あれだけ情熱的に思われて、こんなにそっけなくされてしまっては、ちょっと悲しい。それとも、やはり橘のことを面倒だと思っているのだろうか。
(あんな風にチョコレートを受け取っておいて?)
 だとしたら、思わせぶりにも程がある。橘をからかって、楽しんでいるのろうか。
「橘さんは仰木さんのこと、すごく大事に想ってますよね。その………ヘンな意味で」
 あの理性の塊のような橘が、理屈を抜きにしてしまえるほど強く。
 思い切って身体の向きを変えて、仰木高耶の眼を見た。
 相変わらず強い力を放つその眼に、長時間耐えられそうになくて口早に言う。
「仰木さんもちゃんと橘さんのこと好きですか?」
────……」
 沈黙する仰木高耶を前にして、かなり馬鹿なことを言ってしまった、とすぐに気付いたのだが、もう取り返しはつかない。
 しばらくの沈黙が続いた後、彼は心臓をバクバク言わせている田所には何も答えずに、涼しい顔で立ち上がった。
「起こしてくる」
 それだけ言って、去って行く。
 姿が見えなくなったところで、田所は大きく息を吐いた。
(徹夜するより疲れたかも……)
 見ると時計の長針が、ちょうど5分進んだところを指していた。
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