ア ン コ モ ン ライフ
uncommon life
作戦は、初っ端からうまくいかなかった。
予想以上に霊波塔に配置されていた敵方の兵士が多く、陽動隊が全ての兵をひきつけられなかったのだ。
送霊力線を切断する田所たちのチームが行動を開始すると、すぐに敵兵からの攻撃が始まった。田所は、切断どころか逃げ回るので精一杯だ。
「陽動隊はなにやってんっすかっ!」
"命よりも大事"くらいなことを言っていた変換装置を弾除けにしながら、田所は叫ぶ。
「あっちはもっとたくさんの兵がいるはずだ!変換を急がないと、向こうが持たなくなる!」
最初のうちは小さな爆弾みたいなものを投げつけて敵を排除していた仰木高耶だったが、すぐに腕についていた銀色の輪っかを外してしまった。
それが霊枷であるということは橘から聞いて知っている。《力》を使うことを、中川に止められているのだそうだ。けれど。
(う……わ………っ)
仰木高耶はすごい、ケタ違いだ、とは聞いてはいた。けれど耳で効くのと実際目で見るのではだいぶちがう。
橘は、出来るだけ霊枷を外させるな、と言っていたが、圧倒されてしまってとても言い出せる状況ではない。
(異常だ)
あっという間に敵兵の数が減っていく。すぐに作業を始められそうな状況になった。
「田所っ!」
「はいっっ!!」
やっとの出番に、田所は自分を奮い立たせた。ここで力を発揮できなければ、何の意味もない。
(いやいや、意味がないんじゃなかった)
今まで自分のしてきたことを、いい結果に導くために。
(俺の取り柄はこれしかないんだから……!)
切断中、二度敵の応援部隊がやってきて手こずらされたものの、何とか変換作業は開始された。
しかし、なかなか変換率があがらない。
戦闘の合間を縫って、仰木高耶が田所のもとにやってくる。
「どうだ?」
田所は、手元の液晶画面に霊波塔に残る霊力の残量をわかりやすく表示した。
「大体残りが87%くらいですね」
そう言っているうちに、数値が86%に下がる。
「………これじゃ遅すぎる」
仰木高耶は難しい顔で言った。
「何時間かける気だ。もっと急げ」
「でも、これ以上速くすると装置が持たなくなります」
「田所」
頭を上げると、説教顔になっている。
「わかるだろう、これはテストじゃない。実戦なんだ」
敵方の銃弾が跳んで来て、仰木高耶は《力》で弾き飛ばした。
「もっとスピードが上がらないなら、皆無事じゃすまなくなる」
「………はい」
それは田所もよくわかっていた。
だからこそ、装置がショートしてはまずいと慎重になりがちだったのだが、確かにこれだけ時間がかかっていたら、とても持ちそうにない。
田所は必死にキーボードを叩いた。
手渡された小さな爆弾のようなものを向かってくる敵兵に投げつけながら、叩きまくった。
(よしっ!もう少し!!)
ところが、あとちょっとというところで装置に異変が起きた。
モニターの霊力残量表示は14%で、そこから0.01%も減る様子がない。
「どうした!?」
装置を調べてまわっている田所の異変に気付いて、すぐさま仰木高耶は飛んできた。
「動きませんっ……!どっかの回線がショートしたのかもしれません!」
ちゃんと動くギリギリのところを狙ったつもりだったのに、どこかで計算を間違えたらしい。
「くそっっ!」
田所は悔しくてしょうがない。
「───結界の様子を聞いてみる」
仰木高耶が塔周辺にいる橘に連絡を取ると、結界が弱まる様子はみてとれないという。
「やっぱり、完璧に空にしなくては駄目か」
(ここまできて……!)
もう、悔しいどころではない。最悪の結果だ。
「………引き際も肝心だ」
これ以上犠牲は増やしたくない、そう言って、仰木高耶は撤退を決意した。
すぐに各隊と連絡を取り始める。
「……………」
それを見つめて唇を噛んでいた田所の頭にひとつ、あるアイデアが浮かんでしまった。
危険極まりない方法ではあったが───。
(やるしか……ないよな……)
くるりと後ろを向くと、霊波塔からの霊力線の連結を外して地面に置いた。すぐ隣に連結されていた送電所までの電線にも飛びついて外す。
「田所っ!何してるっ!?」
後ろで、仰木高耶の怒っている声がした。
「俺のチカラを使って変換してみます!!」
どうなるかは想像もつかなかったけど、電線を握ったまま送電力線に触れて、念じた。
「うわあああああああ!!!!」
雷が駆け巡るような衝撃が、全身に走った。
身体に力が入らなくなり、膝ががくっと折れる。なんとか這いつくばりながらモニターの方を見ると、変換率はかつてないくらい良好だ。ぐんぐんと残量が減っていく。
(おお、やっぱ俺ってすげえ……)
声を大にして言いたかったけど、とても声は出そうになかった。
ひどい苦痛の中、必死に意識を保つ。
「くぅっっ……!」
なんとかモニターの数字が0%になったのを見届けて、地面に倒れこんだ。
「田所……っ!」
駆け寄ってくる仰木高耶の必死の叫び声が聞こえる。
それが段々遠ざかっていくのを感じながら、田所は目を閉じた。
予想以上に霊波塔に配置されていた敵方の兵士が多く、陽動隊が全ての兵をひきつけられなかったのだ。
送霊力線を切断する田所たちのチームが行動を開始すると、すぐに敵兵からの攻撃が始まった。田所は、切断どころか逃げ回るので精一杯だ。
「陽動隊はなにやってんっすかっ!」
"命よりも大事"くらいなことを言っていた変換装置を弾除けにしながら、田所は叫ぶ。
「あっちはもっとたくさんの兵がいるはずだ!変換を急がないと、向こうが持たなくなる!」
最初のうちは小さな爆弾みたいなものを投げつけて敵を排除していた仰木高耶だったが、すぐに腕についていた銀色の輪っかを外してしまった。
それが霊枷であるということは橘から聞いて知っている。《力》を使うことを、中川に止められているのだそうだ。けれど。
(う……わ………っ)
仰木高耶はすごい、ケタ違いだ、とは聞いてはいた。けれど耳で効くのと実際目で見るのではだいぶちがう。
橘は、出来るだけ霊枷を外させるな、と言っていたが、圧倒されてしまってとても言い出せる状況ではない。
(異常だ)
あっという間に敵兵の数が減っていく。すぐに作業を始められそうな状況になった。
「田所っ!」
「はいっっ!!」
やっとの出番に、田所は自分を奮い立たせた。ここで力を発揮できなければ、何の意味もない。
(いやいや、意味がないんじゃなかった)
今まで自分のしてきたことを、いい結果に導くために。
(俺の取り柄はこれしかないんだから……!)
切断中、二度敵の応援部隊がやってきて手こずらされたものの、何とか変換作業は開始された。
しかし、なかなか変換率があがらない。
戦闘の合間を縫って、仰木高耶が田所のもとにやってくる。
「どうだ?」
田所は、手元の液晶画面に霊波塔に残る霊力の残量をわかりやすく表示した。
「大体残りが87%くらいですね」
そう言っているうちに、数値が86%に下がる。
「………これじゃ遅すぎる」
仰木高耶は難しい顔で言った。
「何時間かける気だ。もっと急げ」
「でも、これ以上速くすると装置が持たなくなります」
「田所」
頭を上げると、説教顔になっている。
「わかるだろう、これはテストじゃない。実戦なんだ」
敵方の銃弾が跳んで来て、仰木高耶は《力》で弾き飛ばした。
「もっとスピードが上がらないなら、皆無事じゃすまなくなる」
「………はい」
それは田所もよくわかっていた。
だからこそ、装置がショートしてはまずいと慎重になりがちだったのだが、確かにこれだけ時間がかかっていたら、とても持ちそうにない。
田所は必死にキーボードを叩いた。
手渡された小さな爆弾のようなものを向かってくる敵兵に投げつけながら、叩きまくった。
(よしっ!もう少し!!)
ところが、あとちょっとというところで装置に異変が起きた。
モニターの霊力残量表示は14%で、そこから0.01%も減る様子がない。
「どうした!?」
装置を調べてまわっている田所の異変に気付いて、すぐさま仰木高耶は飛んできた。
「動きませんっ……!どっかの回線がショートしたのかもしれません!」
ちゃんと動くギリギリのところを狙ったつもりだったのに、どこかで計算を間違えたらしい。
「くそっっ!」
田所は悔しくてしょうがない。
「───結界の様子を聞いてみる」
仰木高耶が塔周辺にいる橘に連絡を取ると、結界が弱まる様子はみてとれないという。
「やっぱり、完璧に空にしなくては駄目か」
(ここまできて……!)
もう、悔しいどころではない。最悪の結果だ。
「………引き際も肝心だ」
これ以上犠牲は増やしたくない、そう言って、仰木高耶は撤退を決意した。
すぐに各隊と連絡を取り始める。
「……………」
それを見つめて唇を噛んでいた田所の頭にひとつ、あるアイデアが浮かんでしまった。
危険極まりない方法ではあったが───。
(やるしか……ないよな……)
くるりと後ろを向くと、霊波塔からの霊力線の連結を外して地面に置いた。すぐ隣に連結されていた送電所までの電線にも飛びついて外す。
「田所っ!何してるっ!?」
後ろで、仰木高耶の怒っている声がした。
「俺のチカラを使って変換してみます!!」
どうなるかは想像もつかなかったけど、電線を握ったまま送電力線に触れて、念じた。
「うわあああああああ!!!!」
雷が駆け巡るような衝撃が、全身に走った。
身体に力が入らなくなり、膝ががくっと折れる。なんとか這いつくばりながらモニターの方を見ると、変換率はかつてないくらい良好だ。ぐんぐんと残量が減っていく。
(おお、やっぱ俺ってすげえ……)
声を大にして言いたかったけど、とても声は出そうになかった。
ひどい苦痛の中、必死に意識を保つ。
「くぅっっ……!」
なんとかモニターの数字が0%になったのを見届けて、地面に倒れこんだ。
「田所……っ!」
駆け寄ってくる仰木高耶の必死の叫び声が聞こえる。
それが段々遠ざかっていくのを感じながら、田所は目を閉じた。
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