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ア ン コ モ ン   ライフ
uncommon life
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「今、役立っているじゃないか」
「…………」
 まあ、言われてみればそうだ。
「でも、意図してた訳じゃないんで」
 まさか死んだ後に役立つなんて思っても見なかった。
「物事は万事、そういうものだろう?」
 橘は装置のほうを向いたまま、田所の顔は見ずに言った。
「意味のないこと、というのはない。いい意味でも、悪い意味でもな」
「悪い意味?」
「行動にはかならず結果が伴うということだ。有益か有害。必ずどちらかのな」
「有害………」
 つまり害にならなかっただけ、あの選択はよしとすべきだと言いたいのだろうか。
 それって、遠まわしに励ましてくれているのだろうか?
 いやいや、たぶん本当にそう思ったから口にしただけで、他意はなさそうだ。
 そのようなことを考えつつ、ずっと動ごかしていた指で最後の計算式を打ちこんだ。
「オッケーです」
 これで準備万端だ。
 橘はうなずくと、落ち着いた声で周囲に指示をだした。
「試運転開始」
 その一言で、装置のスイッチが入れられる。
 最初は小さなモーター音がするだけだったが、次第にとてつもない轟音をたてはじめた。
「うおおお!」
 少しだけ感動した田所は、思わず声をあげた。変換率のレポートが、グラフとなって画面に映し出されていく。しばらく右肩上がりで上下していた線は、次第に一定の領域内で安定するようになってきた。
 がしかし、その値は正直がっかりせざるを得ない数値だ。さっきのあの『シバテンの首』の霊力を目の当たりにしていたから、もしかしたら予想を遥かに超える数値をだして大成功!かと思っていたのに。
 これはかなり調整が必要そうだ。
 失敗の部類に入ってしまうのか?と考えていた田所だったが、橘の方はそうは思わなかったようだ。
「考えていたよりはいい数字だな」
 モニターを見ながらそう言う。
「そうですか?予想下限値ギリギリじゃないですか」
 田所が頬を膨らませていると、さらりと言った。
「長土からの予想レポートではもっと低かった」
「………へっ?けど檜垣さんに───
 今朝、本部へ提出する資料を檜垣に渡す際、自分の出した予想値はあくまでも最低条件で計算してるから実際はもっと上をいくはずだと橘が言っているのをこの耳で聞いたし、自分もすっかりそのつもりでいた。あれは長土からのレポートを元に橘が出した数字だったはずだ。今日の試運転の許可判断だって、その数字を踏まえて決定されたはずだ。
「は、はったりだったんですかっ!?」
「人聞きの悪い。多少強引でも試運転をやらねば何も始まらないだろう」
「そりゃあそうかもしれませんが………」
 田所は開いた口が塞がらなかった。
 こういうことは、やっぱり仕事のやり方を知っている人間のなせる業だと感心もする。
 けどだからって、身内まで騙すことはないだろう。例え、小源太を信用させるための策だったとしてもだ。こっちは仲間だと思ってがんばっているというのに。
「嘘つきぃっ」
 どうしても納得がいかなくて、グチグチ言ってると、
「必要悪だ」
ときっぱりと言われてしまった。
 けれどよくよく考えてみて、思わず笑みをこぼす。
 冷血漢のような顔をして嘘をつくことを"悪"と呼ぶ橘が、面白いと思ったからだ。
 やっぱりどこか憎めない、と田所は思った。
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