ア ン コ モ ン ライフ
uncommon life
それからしばらくの間は、様子を見ながらの微調整が続いた。
細かい作業の連続でひどく根気が要ったがきちんと成果が出て、かなり変換効率をあげることができた。
試しに、と手伝いの隊士がラジオを繋いでみると、当たり前だがちゃんと電源があがる。
「おお~」
思わず声をもらしてしまった。
「これは……すごいことですよ、橘さん」
「まだ使い物にはならないがな」
「いやいや、今のうちに特許とか取るべきですよ!」
我ながらのいいアイデアに興奮を抑えきれずにそう言ったら、珍しい橘の笑顔が見られた。
単に笑われただけとも言えるが。
「だっていいですか?世界中で利権争いが起きてるものといえば、何だと思います?」
息込んで話してみても、橘は全く取り合ってくれない。レポートに目を通しながら空返事をしている。
「石油、つまりエネルギーですよ!これがあればエネルギーの有限問題が解決する、つまり世界平和に貢献できるってことですよ!」
「──そして金も儲かる、か」
「まあ……副産物みたいなもんです、それは」
やっと話に乗る気になったようで、橘は顔をあげてくれたのだが、
「いったい世界中のエネルギーを補うだけの霊力源をどこから調達するつもりなんだ」
「…………」
痛いところを突かれてしまって、田所は黙り込むしかなかった。
「それに、永遠に《念》を残し続けられるものなどない。電力という形に変換されて《念》が放出されれば、どんな楚体の《念》もいつかは尽きてしまう」
確かにそう言われてみれば、これもまた限りの有る方法だと言わざるを得ない。
「言うほど簡単にはいかないさ」
「……世界中探し回れば、無尽蔵の霊力源、みたいなものがないですかね?」
「さあな。見つかったところで、それもまた利権争いが起きるだろうな」
「そうですね………」
シュンとなったところで、ある問題に気付く。
「じゃあ、この『シバテン』もいつかは干からびる時がくるかもしれないってことですか?」
「ああ、永遠に利用できる訳ではないだろう」
田所は、首の埋め込まれたあたりを眺めた。
「なんか……ちょっと残酷な話ですね」
『シバテン』が元々ナニだったかは定かではないが、使い捨ての感が否めなくもない。
ちょっとひどいではないか。仮に名付けるのなら、生物電池だ。
「こいつが駄目になったら、どうするんでしょう」
いつ電池が切れるのか、それを計算することはきっと無理だろう。
ある日突然、動かなくなってしまうかもしれない。
「そうなったら、レツミョウセイってやつを使う気ですかね」
「それはないだろうな」
橘は何か事情を知っているのか、いやに断定的に言った。
「そうですか……」
なにかいいアイデアはないものかと考えを巡らせてみて、またしても名案が思いつく。
「思ったんですけど、四国結界には常に霊力の流れが循環しているわけですよね?それを利用できたら無尽蔵になりませんかね?」
この方法なら誰かやナニかが犠牲になるということはない。
けれど橘は、何も知らないくせに、という眼でこっちを見てきた。
「いったいそれだけ膨大な霊力を、どうやって調節しながら変換するって言うんだ。こんな拙い機械仕掛けではとても無理だろう。何人もの術師を常任させ、ひたすら修法を取り行い続けなければならない。しかもその修法がひとたびバランスを崩せば、どんな反動が起こるか」
「はあ……」
なんだか説教されている気分になって、田所はうなだれ気味になった。
「大体この変換率を見ろ。コレだけの楚体を使ってでも常時使える電力は砦ひとつ分にも満たないだろう。さらに変換効率をあげていかなければこれだって無用の長物になりかねん」
橘は喋りきった勢いで手にしていたレポートをバサッと置くと、
「もういいだろう。止めてくれ」
と、運転停止の指示を出した。
「これだけデータが取れれば充分だろう。目を通して改善の余地をまとめておいてくれ」
結果をまとめたら、檜垣のところと長土に、と言うと、橘は片付けをする隊士たちを尻目に車へと向かおうとする。
「どこ行くんですか?」
「……たまには、夢を見ずに眠りたい」
そう言って車に乗り込むと、そのままどこかへ行ってしまった。
そして結局、翌日の昼まで帰ってこなかった。
細かい作業の連続でひどく根気が要ったがきちんと成果が出て、かなり変換効率をあげることができた。
試しに、と手伝いの隊士がラジオを繋いでみると、当たり前だがちゃんと電源があがる。
「おお~」
思わず声をもらしてしまった。
「これは……すごいことですよ、橘さん」
「まだ使い物にはならないがな」
「いやいや、今のうちに特許とか取るべきですよ!」
我ながらのいいアイデアに興奮を抑えきれずにそう言ったら、珍しい橘の笑顔が見られた。
単に笑われただけとも言えるが。
「だっていいですか?世界中で利権争いが起きてるものといえば、何だと思います?」
息込んで話してみても、橘は全く取り合ってくれない。レポートに目を通しながら空返事をしている。
「石油、つまりエネルギーですよ!これがあればエネルギーの有限問題が解決する、つまり世界平和に貢献できるってことですよ!」
「──そして金も儲かる、か」
「まあ……副産物みたいなもんです、それは」
やっと話に乗る気になったようで、橘は顔をあげてくれたのだが、
「いったい世界中のエネルギーを補うだけの霊力源をどこから調達するつもりなんだ」
「…………」
痛いところを突かれてしまって、田所は黙り込むしかなかった。
「それに、永遠に《念》を残し続けられるものなどない。電力という形に変換されて《念》が放出されれば、どんな楚体の《念》もいつかは尽きてしまう」
確かにそう言われてみれば、これもまた限りの有る方法だと言わざるを得ない。
「言うほど簡単にはいかないさ」
「……世界中探し回れば、無尽蔵の霊力源、みたいなものがないですかね?」
「さあな。見つかったところで、それもまた利権争いが起きるだろうな」
「そうですね………」
シュンとなったところで、ある問題に気付く。
「じゃあ、この『シバテン』もいつかは干からびる時がくるかもしれないってことですか?」
「ああ、永遠に利用できる訳ではないだろう」
田所は、首の埋め込まれたあたりを眺めた。
「なんか……ちょっと残酷な話ですね」
『シバテン』が元々ナニだったかは定かではないが、使い捨ての感が否めなくもない。
ちょっとひどいではないか。仮に名付けるのなら、生物電池だ。
「こいつが駄目になったら、どうするんでしょう」
いつ電池が切れるのか、それを計算することはきっと無理だろう。
ある日突然、動かなくなってしまうかもしれない。
「そうなったら、レツミョウセイってやつを使う気ですかね」
「それはないだろうな」
橘は何か事情を知っているのか、いやに断定的に言った。
「そうですか……」
なにかいいアイデアはないものかと考えを巡らせてみて、またしても名案が思いつく。
「思ったんですけど、四国結界には常に霊力の流れが循環しているわけですよね?それを利用できたら無尽蔵になりませんかね?」
この方法なら誰かやナニかが犠牲になるということはない。
けれど橘は、何も知らないくせに、という眼でこっちを見てきた。
「いったいそれだけ膨大な霊力を、どうやって調節しながら変換するって言うんだ。こんな拙い機械仕掛けではとても無理だろう。何人もの術師を常任させ、ひたすら修法を取り行い続けなければならない。しかもその修法がひとたびバランスを崩せば、どんな反動が起こるか」
「はあ……」
なんだか説教されている気分になって、田所はうなだれ気味になった。
「大体この変換率を見ろ。コレだけの楚体を使ってでも常時使える電力は砦ひとつ分にも満たないだろう。さらに変換効率をあげていかなければこれだって無用の長物になりかねん」
橘は喋りきった勢いで手にしていたレポートをバサッと置くと、
「もういいだろう。止めてくれ」
と、運転停止の指示を出した。
「これだけデータが取れれば充分だろう。目を通して改善の余地をまとめておいてくれ」
結果をまとめたら、檜垣のところと長土に、と言うと、橘は片付けをする隊士たちを尻目に車へと向かおうとする。
「どこ行くんですか?」
「……たまには、夢を見ずに眠りたい」
そう言って車に乗り込むと、そのままどこかへ行ってしまった。
そして結局、翌日の昼まで帰ってこなかった。
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