ア ン コ モ ン ライフ
uncommon life
「にしても遅ぇなあ」
もうとっくに本部での会議は終わっていてもいいはずだ。小源太は楚体の使用許可を幹部陣から取り付けることが出来たのだろうか。それが出来なければ、せっかくの試作器もただの鉄の塊になってしまう。椅子の背もたれに寄りかかってぼやいていると、
「ヒマならこっちの手伝いをせい」
とすぐ隣から声が飛んできた。
「ヒマじゃねーし!」
霊電力変換器開発プロジェクト宿毛支部は、宿毛の武器工場の一角に間借りをしている状態だ。もともと田所が働いていた工場な訳だから、すぐ隣で武具の組み立てなどをしている面々は、いわば元同僚だ。一番下っ端だった田所を、未だに新参者の現代人扱いでからかってきたりする。けれど、昔は嫌で嫌でしょうがなかったそれも、今は軽く受け流せてしまうから不思議だ。今の田所には、自分にしかできない仕事をしているという自信がある。
「今のうちに何か食っとこうかなあ」
もうすぐ昼だ。
明け方まで提出資料用の計算に追われていた田所は少し仮眠を取っただけだったから、眠くなるといけないと思って朝食は抜きにした。けれどもし昼を過ぎても連絡がないようなら、今日中の試運転は時間的に無理だろう。だったら我慢していても意味がない。
それとももう一度装置のプログラムをチェックしなおしておいたほうがいいのかどうか……と迷っていると、入り口のドアから、よく見知った長身の男が入ってくるのが見えた。
役者のような顔立ちに均整のとれた身体は一見すると必要以上に目立ってしまいそうだが、ソフトな身のこなしがそれを嫌味にみせない。上下とも黒い衣服のその男は、まっすぐにこちらへ向かって来る。髪が濡れているのは、風呂あがりのためだろう。今日は朝からどこだったかの霊波塔の奪還作戦があると言っていたから、その戦闘を終えて帰ってきたばかりに違いない。
それよりも田所は、男の手に握られた白い紙袋のほうが気になった。
その袋から、とてもいい匂いがただよってくるのだ。
「おかえりなさい!なんすか、それ」
「今のうちに食べておけ」
そう言って投げてよこした袋を開けてみると、中身はチキンカツのサンドイッチだった。
揚げたてらしく、ホカホカだ。
「あーちょうど腹減ってたんです」
宿毛砦の食堂にいる料理長は、赤鯨衆内でもかなり評判の腕前だ。
腹の減った田所は、遠慮なくがっつき始めた。
「本部からの……連絡……全くない……んですけど」
もぐもぐ口を動かしながら、状況を説明する。
「今頃、檜垣が議題にあげてるはずだ」
男は左手首の時計を見ながらそう言った。
「え、やっと今からですか」
「あれだけの資料を揃えたんだ。向こうも文句のつけようがないだろう。許可さえ出ればすぐに試運転を始めるからそのつもりでいろ」
「わっかりました!再計算しときます!」
軍隊風に敬礼をしておどけて見せた田所は、残りのサンドイッチを口に放り込む。
いよいよだ、と思うと一気に眠気がふっとんだ。
が、男のほうは表情ひとつ変わらない。
どちらかというと疲れた顔で言った。
「悪いが少しだけ仮眠をとる。一時間経ったら起こしてくれ」
「はーい、おやすみなさーい」
たぶん男の目の下の隈は、一時間ばかしの仮眠でとれるものじゃないだろう。
かわいそうにと思いつつ、田所は工場備え付けの仮眠室へと向かう男の姿を見送った。
もうとっくに本部での会議は終わっていてもいいはずだ。小源太は楚体の使用許可を幹部陣から取り付けることが出来たのだろうか。それが出来なければ、せっかくの試作器もただの鉄の塊になってしまう。椅子の背もたれに寄りかかってぼやいていると、
「ヒマならこっちの手伝いをせい」
とすぐ隣から声が飛んできた。
「ヒマじゃねーし!」
霊電力変換器開発プロジェクト宿毛支部は、宿毛の武器工場の一角に間借りをしている状態だ。もともと田所が働いていた工場な訳だから、すぐ隣で武具の組み立てなどをしている面々は、いわば元同僚だ。一番下っ端だった田所を、未だに新参者の現代人扱いでからかってきたりする。けれど、昔は嫌で嫌でしょうがなかったそれも、今は軽く受け流せてしまうから不思議だ。今の田所には、自分にしかできない仕事をしているという自信がある。
「今のうちに何か食っとこうかなあ」
もうすぐ昼だ。
明け方まで提出資料用の計算に追われていた田所は少し仮眠を取っただけだったから、眠くなるといけないと思って朝食は抜きにした。けれどもし昼を過ぎても連絡がないようなら、今日中の試運転は時間的に無理だろう。だったら我慢していても意味がない。
それとももう一度装置のプログラムをチェックしなおしておいたほうがいいのかどうか……と迷っていると、入り口のドアから、よく見知った長身の男が入ってくるのが見えた。
役者のような顔立ちに均整のとれた身体は一見すると必要以上に目立ってしまいそうだが、ソフトな身のこなしがそれを嫌味にみせない。上下とも黒い衣服のその男は、まっすぐにこちらへ向かって来る。髪が濡れているのは、風呂あがりのためだろう。今日は朝からどこだったかの霊波塔の奪還作戦があると言っていたから、その戦闘を終えて帰ってきたばかりに違いない。
それよりも田所は、男の手に握られた白い紙袋のほうが気になった。
その袋から、とてもいい匂いがただよってくるのだ。
「おかえりなさい!なんすか、それ」
「今のうちに食べておけ」
そう言って投げてよこした袋を開けてみると、中身はチキンカツのサンドイッチだった。
揚げたてらしく、ホカホカだ。
「あーちょうど腹減ってたんです」
宿毛砦の食堂にいる料理長は、赤鯨衆内でもかなり評判の腕前だ。
腹の減った田所は、遠慮なくがっつき始めた。
「本部からの……連絡……全くない……んですけど」
もぐもぐ口を動かしながら、状況を説明する。
「今頃、檜垣が議題にあげてるはずだ」
男は左手首の時計を見ながらそう言った。
「え、やっと今からですか」
「あれだけの資料を揃えたんだ。向こうも文句のつけようがないだろう。許可さえ出ればすぐに試運転を始めるからそのつもりでいろ」
「わっかりました!再計算しときます!」
軍隊風に敬礼をしておどけて見せた田所は、残りのサンドイッチを口に放り込む。
いよいよだ、と思うと一気に眠気がふっとんだ。
が、男のほうは表情ひとつ変わらない。
どちらかというと疲れた顔で言った。
「悪いが少しだけ仮眠をとる。一時間経ったら起こしてくれ」
「はーい、おやすみなさーい」
たぶん男の目の下の隈は、一時間ばかしの仮眠でとれるものじゃないだろう。
かわいそうにと思いつつ、田所は工場備え付けの仮眠室へと向かう男の姿を見送った。
PR