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ア ン コ モ ン   ライフ
uncommon life
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「ふぅ~~……」
 繰り返し襲ってくる睡魔を何とかしたくて、洗面所の流し台で顔を洗った。
 頭を上げると目の前の鏡には最期の瞬間に目の合った男がぼんやりとした表情で映っている。
 この顔とももう一年以上の付き合いになる。
 赤鯨衆隊士、田所好浩は現代霊である。
 自分を死なせた事故加害者に憑依して、途方に暮れているところを赤鯨衆に保護された。以来、戦闘要員としてよりも主に裏方として活動している。
 今は宿毛にある武器工場に所属して、赤鯨衆霊具開発部門あげての一大プロジェクトに参加していた。

「どこいっとったんじゃ!長土から散々電話がきちょるぞ」
「わりぃ、わりぃ」
 たった10分席を外しただけなのに、もう二度も電話があったという。どうせ内容は、とある装置の試運転の許可が下りたかどうかの問い合わせだろうとわかっていたから、電話は折り返さなかった。
 けれど5分も経たないうちにまた電話がかかってきて、田所は1時間前と同じ説明を繰り返さなければならなかった。今朝、試運転の許可を得るための書類を提出してから状況は変わらず、今も小源太からの連絡を待っているところだと。
 まあ、赤鯨衆の霊具開発の本拠地である長土製作所にしてみても、このプロジェクトは創設以来の悲願であるらしいから、浮き足立つのも無理はない。
『霊電力変換器開発プロジェクト』。
 長らく停滞していたこのプロジェクトの進行が一気に加速を始めた原因に、実は田所も一枚かんでいた。

 きっかけは、宿毛の武器工場で毎日武具の組み立てをやらされていた田所が、PC関係に強いという理由だけでとある潜入捜査に同行したときのことだった。
 田所の役目は敵方の電子機器にハッキングして情報を手に入れることだったのだが、いざ機器に侵入しようとしたとたん、敵の計略により電力の供給が絶たれてしまったのだ。
 田所の端末にはバッテリーが装備されていたが、侵入したい機器の電源があがらなければどうしようもない。しかも敵が目前に迫り、もう絶体絶命というところになって、急に機器の電源が上がったのである。
 単にツイていたという訳ではない。
 実は田所は、自身の身体の中で霊力を電力に変換することのできるという、特異体質の持ち主だったのだ。
 通常、人体内において電気と霊力というのはまったく別のものだ。霊力をいくら電子機器に注入したところで動くものではない。
 身体と言うものはもともと電気を蓄えているものだが、それを霊力によって押し出す、もしくは念動力によって電子機器を動かす(精密機器はもちろん無理だ)ことは出来るとしても、田所のように霊力を電力に変換して電子機器を動かす、というのはかなり特殊だった。
 自分にそんな能力があるとは思っていなかった田所は、その任務以降すっかり舞い上がってしまい、能力のことを得意気に仲間にふれまわり、実際通電していない機械を動かしてみせてまわった。
 今思えば、馬鹿だったと思う。
 けれどそのお陰で、その特殊な能力のことが長土の研究者たちの耳に入るまで、時間がかからずに済んだのだった。
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