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ア ン コ モ ン   ライフ
uncommon life
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最期の瞬間。
覚えているのは吹っ飛ばされたときの浮遊感とフロントガラス越しの驚いた顔。
俺はいつもの道を、いつものように自転車で走っていただけだ。
そこにアイツは突っ込んできやがった。
事故にあった瞬間はスローモーションになるとか、死ぬ間際の走馬灯とか、あれは全部ホントだ。
俺は宙に浮きながら少しずつ近づいてくる地面を見つめてこれまでの人生を思い返していた。
で、思った訳だ。
俺の人生って、まるで無色透明だった。
特別に良いことも特別に悪いこともなく。
とにかくフツーに学校を出て、結局お決まりのフリーター。
カタチでも名前でも後に何か残るようなデッカいこと、やればよかったよ。
それなりに満足してるつもりだったけど、
別に自分なんていつ死んでも惜しくないとかって思ってたけど、
やっぱ俺、まだ死にたくないわ。

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「ふぅ~~……」
 繰り返し襲ってくる睡魔を何とかしたくて、洗面所の流し台で顔を洗った。
 頭を上げると目の前の鏡には最期の瞬間に目の合った男がぼんやりとした表情で映っている。
 この顔とももう一年以上の付き合いになる。
 赤鯨衆隊士、田所好浩は現代霊である。
 自分を死なせた事故加害者に憑依して、途方に暮れているところを赤鯨衆に保護された。以来、戦闘要員としてよりも主に裏方として活動している。
 今は宿毛にある武器工場に所属して、赤鯨衆霊具開発部門あげての一大プロジェクトに参加していた。

「どこいっとったんじゃ!長土から散々電話がきちょるぞ」
「わりぃ、わりぃ」
 たった10分席を外しただけなのに、もう二度も電話があったという。どうせ内容は、とある装置の試運転の許可が下りたかどうかの問い合わせだろうとわかっていたから、電話は折り返さなかった。
 けれど5分も経たないうちにまた電話がかかってきて、田所は1時間前と同じ説明を繰り返さなければならなかった。今朝、試運転の許可を得るための書類を提出してから状況は変わらず、今も小源太からの連絡を待っているところだと。
 まあ、赤鯨衆の霊具開発の本拠地である長土製作所にしてみても、このプロジェクトは創設以来の悲願であるらしいから、浮き足立つのも無理はない。
『霊電力変換器開発プロジェクト』。
 長らく停滞していたこのプロジェクトの進行が一気に加速を始めた原因に、実は田所も一枚かんでいた。

 きっかけは、宿毛の武器工場で毎日武具の組み立てをやらされていた田所が、PC関係に強いという理由だけでとある潜入捜査に同行したときのことだった。
 田所の役目は敵方の電子機器にハッキングして情報を手に入れることだったのだが、いざ機器に侵入しようとしたとたん、敵の計略により電力の供給が絶たれてしまったのだ。
 田所の端末にはバッテリーが装備されていたが、侵入したい機器の電源があがらなければどうしようもない。しかも敵が目前に迫り、もう絶体絶命というところになって、急に機器の電源が上がったのである。
 単にツイていたという訳ではない。
 実は田所は、自身の身体の中で霊力を電力に変換することのできるという、特異体質の持ち主だったのだ。
 通常、人体内において電気と霊力というのはまったく別のものだ。霊力をいくら電子機器に注入したところで動くものではない。
 身体と言うものはもともと電気を蓄えているものだが、それを霊力によって押し出す、もしくは念動力によって電子機器を動かす(精密機器はもちろん無理だ)ことは出来るとしても、田所のように霊力を電力に変換して電子機器を動かす、というのはかなり特殊だった。
 自分にそんな能力があるとは思っていなかった田所は、その任務以降すっかり舞い上がってしまい、能力のことを得意気に仲間にふれまわり、実際通電していない機械を動かしてみせてまわった。
 今思えば、馬鹿だったと思う。
 けれどそのお陰で、その特殊な能力のことが長土の研究者たちの耳に入るまで、時間がかからずに済んだのだった。
 長土の研究者たちはずっと、効率のよい霊電力変換の方法を探していたのだそうだ。霊電力変換自体はもともと存在している技術で、修法などによって可能なのだが、それでは大掛かりすぎて現実の現場レベルには応用がきかない。けれど急激な新入隊士の増加により、その実現が急務となっていたのだ。
 隊士たちが肉体を持って活動する以上、どうしても電力は必要不可欠となってしまう。自家発電装置の備わった砦もあるのだが、燃料費の高騰により今は一般の送電力網を利用している。無断で、という訳にもいかないからもちろん支払いもする。これが日に日に膨れ上がり、今では尋常でない額となっている。
 苦肉の策として一部の電子機器の電源を霊力対応へと改造したりして節制してはいるが、とても追いつくものではない。
 とにかく変換器さえあれば、そのどちらをもしないですむのだ。安定した霊力源さえ確保できれば、無尽蔵の電力を確保できるのと同じ意味になるからだ。
 だから、浮かれきっていた田所を長土へと呼び寄せた研究者たちは、毎日毎日さまざまな検査やテストを強要してきた。その忙しいスケジュールの割には退屈な毎日に、田所がどうやってそれから逃れようかと必死に考え始めた頃、やっと田所の血液に変換のヒントを見つけた研究者たちは、試作器の製作に取り掛かることとなった。
 が、問題は『安定した霊力源』の確保だ。
 研究者たちは宿毛砦に保管されている、『シバテンの首』に目をつけた。それはかなり大きな念の篭った何かの生物の首なのだが、これを楚体として変換器に埋め込むことができれば、間違いなく安定した霊力源となる。
 『シバテンの首』は小源太が念大砲にでも加工しようと大切に取って置いたものだったのだが、開発部を敵に回してしまっては、大砲どころか念鉄砲のひとつも作ってもらえなくなってしまう。泣く泣く首を手放した小源太は、試作器製作のための場所まで提供することとなってしまった。その試験場施設は、いま田所のいる武器工場からすぐ近くの場所にあり、完成した試作器があとは楚体を埋め込むだけの状態で置かれている。
 霊電力変換のヒントさえ得られればもう用はないとばかりにとっとと宿毛へと返された田所は、試作器製作が近くで行なわれると聞いて、なんとか自分もプロジェクトに参加させて欲しいと頼み込んだ。
 もう単なる工場員でいるのが嫌になってしまったのだ。生前も機械の組み立て工場でアルバイトをしていた田所だ。自分には何の取り得もないと思っていたから文句のひとつも言えなかったが、今は特殊な能力があるとわかってしまった。もう、うだつの上がらない仕事はやりたくない。
 自分の身体の能力が装置開発を前進させたことを強みにして、プロジェクト参加の許可を取り付けた。
 そこからはとんとん拍子でうまくいき、今は田所も開発の主要メンバーとして認められるようになっている。
 田所としてもこの際だから、プロジェクトの進行に一枚どころか二枚も三枚もかんで、日本の霊具製造界(?)に名を残してやろうと気合十分で挑んでいるのだ。
「にしても遅ぇなあ」
 もうとっくに本部での会議は終わっていてもいいはずだ。小源太は楚体の使用許可を幹部陣から取り付けることが出来たのだろうか。それが出来なければ、せっかくの試作器もただの鉄の塊になってしまう。椅子の背もたれに寄りかかってぼやいていると、
「ヒマならこっちの手伝いをせい」
とすぐ隣から声が飛んできた。
「ヒマじゃねーし!」
 霊電力変換器開発プロジェクト宿毛支部は、宿毛の武器工場の一角に間借りをしている状態だ。もともと田所が働いていた工場な訳だから、すぐ隣で武具の組み立てなどをしている面々は、いわば元同僚だ。一番下っ端だった田所を、未だに新参者の現代人扱いでからかってきたりする。けれど、昔は嫌で嫌でしょうがなかったそれも、今は軽く受け流せてしまうから不思議だ。今の田所には、自分にしかできない仕事をしているという自信がある。
「今のうちに何か食っとこうかなあ」
 もうすぐ昼だ。
 明け方まで提出資料用の計算に追われていた田所は少し仮眠を取っただけだったから、眠くなるといけないと思って朝食は抜きにした。けれどもし昼を過ぎても連絡がないようなら、今日中の試運転は時間的に無理だろう。だったら我慢していても意味がない。
 それとももう一度装置のプログラムをチェックしなおしておいたほうがいいのかどうか……と迷っていると、入り口のドアから、よく見知った長身の男が入ってくるのが見えた。
 役者のような顔立ちに均整のとれた身体は一見すると必要以上に目立ってしまいそうだが、ソフトな身のこなしがそれを嫌味にみせない。上下とも黒い衣服のその男は、まっすぐにこちらへ向かって来る。髪が濡れているのは、風呂あがりのためだろう。今日は朝からどこだったかの霊波塔の奪還作戦があると言っていたから、その戦闘を終えて帰ってきたばかりに違いない。
 それよりも田所は、男の手に握られた白い紙袋のほうが気になった。
 その袋から、とてもいい匂いがただよってくるのだ。
「おかえりなさい!なんすか、それ」
「今のうちに食べておけ」
 そう言って投げてよこした袋を開けてみると、中身はチキンカツのサンドイッチだった。
 揚げたてらしく、ホカホカだ。
「あーちょうど腹減ってたんです」
 宿毛砦の食堂にいる料理長は、赤鯨衆内でもかなり評判の腕前だ。
 腹の減った田所は、遠慮なくがっつき始めた。
「本部からの……連絡……全くない……んですけど」
 もぐもぐ口を動かしながら、状況を説明する。
「今頃、檜垣が議題にあげてるはずだ」
 男は左手首の時計を見ながらそう言った。
「え、やっと今からですか」
「あれだけの資料を揃えたんだ。向こうも文句のつけようがないだろう。許可さえ出ればすぐに試運転を始めるからそのつもりでいろ」
「わっかりました!再計算しときます!」
 軍隊風に敬礼をしておどけて見せた田所は、残りのサンドイッチを口に放り込む。
 いよいよだ、と思うと一気に眠気がふっとんだ。
 が、男のほうは表情ひとつ変わらない。
 どちらかというと疲れた顔で言った。
「悪いが少しだけ仮眠をとる。一時間経ったら起こしてくれ」
「はーい、おやすみなさーい」
 たぶん男の目の下の隈は、一時間ばかしの仮眠でとれるものじゃないだろう。
 かわいそうにと思いつつ、田所は工場備え付けの仮眠室へと向かう男の姿を見送った。
 その男、橘義明は現代人だ。
 死霊集団の仲間になった現代人ということだけでもヘンなのに、性格も相当変わっていた。
 普段は冷静で表情を崩すこともめったにないが、時折極端に感情的なことを言ったりする。
 目的のためには手段を選ばないように見えて、妙なところで筋を通したがる。
 このところ毎日のように一緒にいる田所にしてみても、未だに理解できないことの多い男だ。
 そして、とにかく忙しい身だった。
 いずれある伊達方との海戦への備えも任されつつ、檜垣と何か約束があるらしく霊波塔の奪還もせねばならない。四万十の前線に呼び出されることもしばしばで、現代人であることを利用した潜入作戦の協力要請も来る。
 そんな中、何故こんな霊電力変換のプロジェクトなどに関わっているのかというと、檜垣にそう命じられたからだそうだ。橘曰く、休む暇を与えないための上層部の意向、らしい。
 まさかそんな嫌がらせみたいなことを、と思うのだが、実は橘は赤鯨衆の花形である遊撃隊の候補にまであがったものの、スパイ容疑をかけられたとかで宿毛に飛ばされてきたいわくつきの男だったから、行動に自由を与えないための激務と言われれば納得できなくもない。
 だけど田所は、橘なら出来るだろう、くらいの軽い考えで参加させられたのではないかと思っている。檜垣ならありそうなことだ。
 しかしその安易な発想が、大当たりだった。
 もともと自分のような落ちこぼれと、術式やら化学式やらのことしか考えていない研究者肌の人間ばかりの霊具開発製造部門にとって、橘は救世主となった。彼が仕事の進め方というものをよく知っていたおかげで、机上の空論だった霊電力変換器を試運転の段階にまで持ってこられたのだと思う。
 というかそもそも、田所の特異な能力に気づいたのは橘だったのだ。
 例の田所の能力の発見のきっかけとなった潜入捜査に、実は橘も同行していた。
 切羽詰った田所が一瞬だけ機器の電源をあげたことに気付き、霊力を扱うことが苦手な田所に自身の《力》を送り込んで発電させるという荒業をやってのけたおかげで、あの任務は果たせることができたのだ。
 田所にしてみればそれなりに恩も感じるし、親しい人間のいなさそうな橘の唯一の部下、理解者となるべく、これからも仲良くしていきたいと思っている。
 もちろん橘のほうは、そんなことは微塵も思っていないだろうが。


「檜垣さんっ!?待ってましたよ!!」
 PCに向かっていた田所の隣で電話が鳴り出して、また長土からかと嫌々ながら出てみたら、待ちに待った試運転許可の連絡だった。
「わかりました、すぐ始めますっ!」
 勢いよく言って受話器を置いた田所は、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
 と、さっきまで田所をからかっていた連中が、そばへとやってきた。
「とうとう試運転かぁ」
「また人手が要るがやないがか?」
 口々に言う彼らは、変換器の製作段階からよく手伝いをかってでてくれた。
 なんだかんだ言って彼らも、毎日同じ仕事ばかりでは飽きてしまうのだろう。
「あー、すいません。じゃあまたお願いしてもいいですか?」
 田所がそういうと、皆、大きく頷いた。
「よし、わしは車を表にまわしちょく」
「わしは工具の準備をしちゅうきに」
 準備を始める皆の様子を見ながら田所は、まずは橘を起こさなくてはと思い、仮眠室へ向かうことにした。
 便所や簡易シャワー室、仮眠室などのある別棟へは、渡り廊下で繋がっている。
 その渡り廊下を抜けて別棟へ入ると建物の一番奥まったところにあるのが、工場の皆が共同で使っている仮眠室だ。
 田所は軽くノックをした後で、その扉を開いた。
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