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  <title>uncommon life</title>
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  <description>ア　ン　コ　モ　ン　　　ライフ</description>
  <lastBuildDate>Thu, 09 Sep 2010 03:25:32 GMT</lastBuildDate>
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    <item>
    <title>１９</title>
    <description>
    <![CDATA[　中川曰く、田所の怪我は全身火傷に近い症状だった。<br />
　あの日から数日間は、身体中が熱くて、痛くて、死なせて欲しいと本気で思う瞬間も幾度かあった。<br />
　だんだんと落ち着いてはきたものの、苦しくて、息が出来なくて、身体を動かすこともできない。<br />
　そんな状態が長く続いて、田所は体力的にも精神的にもひどく参っていた。<br />
　通常ならこんな状態にはならないそうだが、憑依のせいで憑坐が予想以上に弱っており、なかなか回復に向かわない。<br />
　憑坐を換えるしかない、と言われた。<br />
　しかし、換えれば霊電力変換のチカラはなくなるだろうとも言われた。<br />
　つまり、この憑坐の肉体がとても特殊だから、田所はチカラを使えていたらしい。<br />
　悩みに悩んだ田所は、ある決断をして橘を呼んだ。<br />
<br />
「忙しそうですね」<br />
　話したい、と伝えて貰ってから半日以上が経って、ようやく橘は現れた。<br />
「誰のせいだと思ってる」<br />
「はは、すいません」<br />
　布団の上に起き上がって、田所は頭を下げた。<br />
　きっと田所がすべき装置の修理やなにやら、全てやらされているに違いない。<br />
「どうですか、その後。例の霊波塔は」<br />
「周囲の戦況も含めて、全て計画通りにいっている」<br />
　あの後、田所のお陰で結界を突破するこのできた誘導部隊が見事に霊波塔を奪還し、赤鯨衆は重要な戦略地点を手中に収めることができた。<br />
「そうですか………」<br />
　これだけの怪我をしたのだ。そうでなくは自分の苦労も報われない。<br />
　ほぼ全身に巻かれた包帯を見つめながら、そう思っていると、<br />
「横になっていたほうがいい」<br />
　ミイラ男のような状態は見る者の同情を誘うようで、珍しく橘が気を使ってくれた。<br />
「やせ我慢はよせ」<br />
「……へへ」<br />
　無理して起き上がっていたことも、バレていたようだ。<br />
　もうずっと、身体が自分のものじゃないみたいに重い。<br />
（まあ元々、自分のものじゃないんだけど）<br />
　ベッドに横になって大きく息をついた後で、田所は橘に意思を伝える決心がついた。<br />
「橘さん」<br />
　橘の顔は見ずに、天井を見上げて言う。<br />
「俺、このまま逝きます」<br />
　自分で言ったその言葉の重みに耐え切れなくなって、目を閉じた。<br />
「俺がいてもこの身体は弱っていく一方みたいだし、うちの親もいい加減、ひき逃げ犯が捕まって欲しいだろうし」<br />
「……憑坐を換えるという方法もあるだろう」<br />
　それは田所だって考えた。けれど悩んだ挙句、やめたのだ。<br />
「そうまでして、この世に残る理由がなくなりました」<br />
「<span class="line">────</span>……」<br />
　装置のことは、本来の使用目的とは少し違ったけど、あの作戦が成功したことで達成感もあった。<br />
　たぶんこの先、自分の目指したものは誰かが引き継いでいってくれるはず。それで十分だ。<br />
　それに、この憑坐は自分を殺した人間だったから、憑依にも罪悪感はなかったけど、何のかかわりもない人間の身体を奪ってまで生きていようとはとても思えない。<br />
　生きることの楽しみがわかってしまったから、もう人から奪うことはできない。<br />
「今持ってる未練は全部、次の人生に持ってくことにします」<br />
「そうか」<br />
　いやにすんなり納得されて、田所は橘を見上げた。<br />
「引き止めてくれないんですか」<br />
　ちょっとそこらへんへ出掛けていくのとは訳がちがう。<br />
　この地上から自分はいなくなる。<br />
　もう二度と、会うことはないというのに。<br />
「それはわからないだろう。運が良ければ<span class="line">───</span>悪ければ、会うこともあるかもしれない」<br />
　わざわざ嫌味に言い直した橘に、田所は疑問顔になった。<br />
「……あの世でってことですか？」<br />
「いや。お前がもう一度、この世に生を受けたときだ」<br />
　その言葉に、田所はきょとんとした。<br />
　生まれ変わったら、もう誰だかわからないだろうに。<br />
　まあ、互いに誰かわからなくとも、会えば再会したということにはなるだろうが、転生というのはそんなにすぐに出来るものなのだろうか？<br />
「いったい、何歳まで生きるつもりなんですか」<br />
と笑って突っ込みをいれたら、橘も静かに微笑った。<br />
　その表情に、どこか達観したようなものを感じて、田所は返す言葉を失ってしまう。<br />
　しばらくの間沈黙が続いて、<br />
「もう、眠ったほうがいい」<br />
と橘が言った。<br />
　喋ることは、意外に体力を消耗するんだ、と言う。<br />
　確かに、疲労感はあった。<br />
　瞼も少しだけ、重くなってきている。<br />
「俺がいなくなったら、困りますよ」<br />
「そうだな」<br />
「いなくなった後も、ちょっとは俺のこと、思い出してくれますか」<br />
「ああ」<br />
「また……嘘ばっかり」<br />
「……必要悪だ」<br />
　その言葉を聞いた田所は、再び笑って、眼を閉じた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　　□　終わり　□ ]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%99</link>
    <pubDate>Fri, 05 Mar 2010 11:50:06 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/19</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１８</title>
    <description>
    <![CDATA[　自分にとって、自分は特別。<br />
　そんなの誰だってそうだ。<br />
　"オンリーワン"は、皆に等しく同じ。<br />
　つまり"誰とも一緒じゃない"ことでは特別になれない。<br />
　俺はそんな状態から抜け出したかったんだと思う。<br />
　けど、その方法がわからなかっただけなんだ。<br />
<br />
　例えば自分以外にもうひとりだけ、自分が特別な存在だと言ってくれる人間がいたとしたら？<br />
　<br />
　その人がもし"あなたは特別よ"と言ってくれたら、きっと俺も"お前は特別だ"と言ってやれる。<br />
　そうして、互いに特別な人生をおくることができると思う。<br />
<br />
　次に生まれてきたら、そんな相手を見つけよう。<br />
　そう、今からじゃなく、次の人生で。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%98</link>
    <pubDate>Fri, 05 Mar 2010 11:48:56 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>１７</title>
    <description>
    <![CDATA[　作戦は、初っ端からうまくいかなかった。<br />
　予想以上に霊波塔に配置されていた敵方の兵士が多く、陽動隊が全ての兵をひきつけられなかったのだ。<br />
　送霊力線を切断する田所たちのチームが行動を開始すると、すぐに敵兵からの攻撃が始まった。田所は、切断どころか逃げ回るので精一杯だ。<br />
「陽動隊はなにやってんっすかっ！」<br />
　"命よりも大事"くらいなことを言っていた変換装置を弾除けにしながら、田所は叫ぶ。<br />
「あっちはもっとたくさんの兵がいるはずだ！変換を急がないと、向こうが持たなくなる！」<br />
　最初のうちは小さな爆弾みたいなものを投げつけて敵を排除していた仰木高耶だったが、すぐに腕についていた銀色の輪っかを外してしまった。<br />
　それが霊枷であるということは橘から聞いて知っている。《力》を使うことを、中川に止められているのだそうだ。けれど。<br />
（う……わ………っ）<br />
　仰木高耶はすごい、ケタ違いだ、とは聞いてはいた。けれど耳で効くのと実際目で見るのではだいぶちがう。<br />
　橘は、出来るだけ霊枷を外させるな、と言っていたが、圧倒されてしまってとても言い出せる状況ではない。<br />
（異常だ）<br />
　あっという間に敵兵の数が減っていく。すぐに作業を始められそうな状況になった。<br />
「田所っ！」<br />
「はいっっ！！」<br />
　やっとの出番に、田所は自分を奮い立たせた。ここで力を発揮できなければ、何の意味もない。<br />
（いやいや、意味がないんじゃなかった）<br />
　今まで自分のしてきたことを、いい結果に導くために。<br />
（俺の取り柄はこれしかないんだから……！）<br />
　切断中、二度敵の応援部隊がやってきて手こずらされたものの、何とか変換作業は開始された。<br />
　しかし、なかなか変換率があがらない。<br />
　戦闘の合間を縫って、仰木高耶が田所のもとにやってくる。<br />
「どうだ？」<br />
　田所は、手元の液晶画面に霊波塔に残る霊力の残量をわかりやすく表示した。<br />
「大体残りが８７％くらいですね」<br />
　そう言っているうちに、数値が８６％に下がる。<br />
「………これじゃ遅すぎる」<br />
　仰木高耶は難しい顔で言った。<br />
「何時間かける気だ。もっと急げ」<br />
「でも、これ以上速くすると装置が持たなくなります」<br />
「田所」<br />
　頭を上げると、説教顔になっている。<br />
「わかるだろう、これはテストじゃない。実戦なんだ」<br />
　敵方の銃弾が跳んで来て、仰木高耶は《力》で弾き飛ばした。<br />
「もっとスピードが上がらないなら、皆無事じゃすまなくなる」<br />
「………はい」<br />
　それは田所もよくわかっていた。<br />
　だからこそ、装置がショートしてはまずいと慎重になりがちだったのだが、確かにこれだけ時間がかかっていたら、とても持ちそうにない。<br />
　田所は必死にキーボードを叩いた。<br />
　手渡された小さな爆弾のようなものを向かってくる敵兵に投げつけながら、叩きまくった。<br />
（よしっ！もう少し！！）<br />
　ところが、あとちょっとというところで装置に異変が起きた。<br />
　モニターの霊力残量表示は１４％で、そこから０．０１％も減る様子がない。<br />
「どうした！？」<br />
　装置を調べてまわっている田所の異変に気付いて、すぐさま仰木高耶は飛んできた。<br />
「動きませんっ……！どっかの回線がショートしたのかもしれません！」<br />
　ちゃんと動くギリギリのところを狙ったつもりだったのに、どこかで計算を間違えたらしい。<br />
「くそっっ！」<br />
　田所は悔しくてしょうがない。<br />
「<span class="line">───</span>結界の様子を聞いてみる」<br />
　仰木高耶が塔周辺にいる橘に連絡を取ると、結界が弱まる様子はみてとれないという。<br />
「やっぱり、完璧に空にしなくては駄目か」<br />
（ここまできて……！）<br />
　もう、悔しいどころではない。最悪の結果だ。<br />
「………引き際も肝心だ」<br />
　これ以上犠牲は増やしたくない、そう言って、仰木高耶は撤退を決意した。<br />
　すぐに各隊と連絡を取り始める。<br />
「……………」<br />
　それを見つめて唇を噛んでいた田所の頭にひとつ、あるアイデアが浮かんでしまった。<br />
　危険極まりない方法ではあったが<span class="line">───</span>。<br />
（やるしか……ないよな……）<br />
　くるりと後ろを向くと、霊波塔からの霊力線の連結を外して地面に置いた。すぐ隣に連結されていた送電所までの電線にも飛びついて外す。<br />
「田所っ！何してるっ！？」<br />
　後ろで、仰木高耶の怒っている声がした。<br />
「俺のチカラを使って変換してみます！！」<br />
　どうなるかは想像もつかなかったけど、電線を握ったまま送電力線に触れて、念じた。<br />
<br />
「うわあああああああ！！！！」<br />
<br />
　雷が駆け巡るような衝撃が、全身に走った。<br />
　身体に力が入らなくなり、膝ががくっと折れる。なんとか這いつくばりながらモニターの方を見ると、変換率はかつてないくらい良好だ。ぐんぐんと残量が減っていく。<br />
（おお、やっぱ俺ってすげえ……）<br />
　声を大にして言いたかったけど、とても声は出そうになかった。<br />
　ひどい苦痛の中、必死に意識を保つ。<br />
「くぅっっ……！」<br />
　なんとかモニターの数字が０％になったのを見届けて、地面に倒れこんだ。<br />
「田所……っ！」<br />
　駆け寄ってくる仰木高耶の必死の叫び声が聞こえる。<br />
　それが段々遠ざかっていくのを感じながら、田所は目を閉じた。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%97</link>
    <pubDate>Fri, 26 Feb 2010 10:44:26 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/17</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１６</title>
    <description>
    <![CDATA[　それから一週間後、決戦の日はやってきた。<br />
　準備期間が短かったせいで、当日になっても朝からバタバタと忙しい田所は、あと少しで出発だというのに未だにピッキング作業に追われていた。<br />
「田所、これは？」<br />
「あ、それは向こうでいいです」<br />
「こっちは！？」<br />
「それは橘さんのほうに！」<br />
　田所のテンパりっぷりを見かねた他の隊士たちに手伝ってもらいながら機材を積み込んで、最後に霊電力変換装置をもう一度点検する。『シバテンの首』は前もって取り外されていて危険はないのだが、運搬途中で事故のないように慎重に養生しておかなければならない。確認が済み、大方の準備が終わっただろうというところで、仰木高耶からの号令がかかり、皆が一同に集まった。<br />
　今回の作戦の概要が、彼の口からもう一度説明される。<br />
　手順としては、陽動部隊が塔の近くで騒ぎを起こし、広範囲に配置されている警備兵を一箇所に引きつけている間に、別の部隊が他の場所で密かに霊電力変換を行う。<br />
　陽動部隊のほうはかなりの戦力が必要なため、四万十からの応援部隊は皆そちらに参加することになっている。二隊に分かれて、橘ともうひとり、早田という四万十の隊士が指揮を執るのだそうだ。<br />
　変換作業を行なう部隊には宿毛の隊士が多く含まれていて、指揮を執るのは仰木高耶だ。<br />
　彼は宣言通り装置のそばにいて、それを護ることになった。<br />
　だから田所も、仰木高耶と行動をともにすることになる。<br />
「変換が終わったタイミングで結界の解除にかかる」<br />
　それまで、陽動部隊はひたすら持ちこたえなければならない。男たちの腕のみせどころだ。<br />
　仰木高耶の説明が終わり、四万十の隊士たちと軽い打ち合わせをした橘は、田所にインカムを手渡しにやってきた。<br />
「無茶はするな。あのひとの隣にいれば大丈夫だ。離れるんじゃないぞ」<br />
「わかってます」<br />
　《力》が扱えない田所は、霊相手には丸腰も同然だ。今回の作戦は田所が怪我でもすれば立ち行かなくなるから、装置とともに田所も護ってもらわねばならない。<br />
　資材の確認を終えた仰木高耶も田所が気になったらしく、こちらへとやってきた。<br />
　装置のコンディションを尋ねられる。<br />
「できることはやりましたから」<br />
　それこそ今朝方までかかって、様々な場合を想定して何通りものパターンで対応できるよう計算しておいた。<br />
「必ず成功させます」<br />
　他の男達が《力》で能力を競い合うというのなら、田所の腕の見せ所はここなのだ。<br />
　そうか、と頷いた仰木高耶は、<br />
「オレのそばを離れるなよ」<br />
と、言った。<br />
「<span class="line">───</span>はい」<br />
　何も橘と同じ事を言わなくてもと、苦笑いになる。<br />
　その橘に、仰木高耶は声をかけなかった。<br />
　目線を少し合わせただけで、くるっと踵を返す。たぶんそれだけで、通ずるものがあるのだろう。<br />
　ところが、数歩行ったところで何かを思い出したように振り返った。<br />
　後姿を追っていた田所は、ばっちり目線が合ってしまった。が、いつも感じるような怖さは感じない。<br />
　それどころか、何かを言いたくて言葉を選んでいるその表情がどこか心細げだったから、どきりとしてしまった。<br />
　何ですか、と促しかけた田所に、仰木高耶は言った。<br />
「………好きとか嫌いじゃない」<br />
「………え？」<br />
　一瞬、意味がわからなくて聞き返す。<br />
「ただ他とは違う。特別なんだ」<br />
　それだけ言って、高耶は再び歩き出して行ってしまった。<br />
（ああ………）<br />
<span class="line">───</span><span class="strongbr">仰木さんもちゃんと橘さんのこと好きですか？</span><br />
　あのときの質問に、今になって答えてくれたのだろう。<br />
（特別、かあ……）<br />
　ふと蘇る。<br />
<span class="line">───</span><span class="strongbr">人に特別な感情を抱かせる……</span><br />
　そうか、互いにそう思い合っているのだな、とわかった。<br />
　きっと自分なんかには想像もできないような強い絆で。<br />
「何の話だ？」<br />
「<span class="line">───</span>秘密です」<br />
　今の言葉の意味を知ったら、橘はどんな顔をするのだろう。想像すると、ついつい顔がニヤけてしまう。<br />
「………あれだけあのひとに反発していたくせに。たらしこまれたな」<br />
「そんなんじゃないですって」<br />
　その場を後にする橘の背中に、田所は笑顔で返事をした。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%96</link>
    <pubDate>Fri, 26 Feb 2010 10:43:31 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/16</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１５</title>
    <description>
    <![CDATA[　人気のなくなった工場に、入り口の扉の開く音が響き渡る。<br />
　田所がそちらをみると、そこに立っていたのは仰木高耶だった。<br />
（おっと……？）<br />
　彼は静まりかえった工場内をぐるりと見回してから、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。<br />
「橘は」<br />
「えーと……いま仮眠室にいるんで、起こしてきますね」<br />
　田所が立ち上がると、<br />
「ならいい」<br />
と帰ってしまいそうになったから、　田所は慌てて引き止めた。<br />
「あ、でももう５分もしたら起こさないといけないんで」<br />
　時計を確認するとまだ少し早いが、どうせうなされて休めてはいないだろうから、起こしに行ってあげたほうがいい。<br />
　ところが仰木高耶は、手近にあった椅子を引くと、<br />
「なら、時間まで待つ」<br />
と言って、座ってしまった。<br />
「………わかりました」<br />
　そう答えて再び席についた田所は、しばらくの間ＰＣに向かってはみたのだが。<br />
（沈黙が重い）<br />
　何故だか背中のあたりに妙なプレッシャーを感じる。<br />
　これも邪眼のせいだろうか。<br />
　何か会話会話、と探してみるが、思いつくのは共通の知人（？）であるあの男のことしかない。<br />
　田所は、身体は画面に向けたまま話しかけた。<br />
「橘さんて、おもしろいひとですよね」<br />
「………そうか？」<br />
「悪党のくせに真面目なとこがあって」<br />
　そう言ったら、同感を得られたのか、仰木高耶は小さく微笑った。<br />
　調子に乗って、更に言葉を続ける。<br />
「どれくらいの付き合いなんですか？」<br />
　軽い気持ちで聞いたのに返事を貰えないので振り返ると、仰木高耶は何故か無表情になってしまっている。田所は慌ててフォローを入れた。<br />
「あの、ヘンな意味じゃなく……えっと、期間、期間です。知り合ってからはもう、長いんですか」<br />
「………数えたことないな」<br />
　仰木高耶は頬杖をついて、近くにあった書類を手に取った。<br />
（<span class="line">───</span>そっけねぇ）<br />
　まあ、何月何日が出会って何ヶ月記念♪とかって言ってもらえる訳はないけれど、もうちょっと気持ちのこもった言葉が聞きたかった。<br />
　あれだけ情熱的に思われて、こんなにそっけなくされてしまっては、ちょっと悲しい。それとも、やはり橘のことを面倒だと思っているのだろうか。<br />
（あんな風にチョコレートを受け取っておいて？）<br />
　だとしたら、思わせぶりにも程がある。橘をからかって、楽しんでいるのろうか。<br />
「橘さんは仰木さんのこと、すごく大事に想ってますよね。その………ヘンな意味で」<br />
　あの理性の塊のような橘が、理屈を抜きにしてしまえるほど強く。<br />
　思い切って身体の向きを変えて、仰木高耶の眼を見た。<br />
　相変わらず強い力を放つその眼に、長時間耐えられそうになくて口早に言う。<br />
「仰木さんもちゃんと橘さんのこと好きですか？」<br />
「<span class="line">────</span>……」<br />
　沈黙する仰木高耶を前にして、かなり馬鹿なことを言ってしまった、とすぐに気付いたのだが、もう取り返しはつかない。<br />
　しばらくの沈黙が続いた後、彼は心臓をバクバク言わせている田所には何も答えずに、涼しい顔で立ち上がった。<br />
「起こしてくる」<br />
　それだけ言って、去って行く。<br />
　姿が見えなくなったところで、田所は大きく息を吐いた。<br />
（徹夜するより疲れたかも……）<br />
　見ると時計の長針が、ちょうど５分進んだところを指していた。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%95</link>
    <pubDate>Fri, 19 Feb 2010 11:28:53 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/15</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１４</title>
    <description>
    <![CDATA[　あの出来事から一日以上が経って、やることに追われていたせいもあったし、橘のほうも全くいつも通りの態度だったから、田所はアレは夢だったんじゃないかと思い始めていた。<br />
　昨日からほぼ徹夜で、今日の夜も少し仮眠を取れればいいかという厳しいスケジュールの中、正直それどころじゃないというのもある。<br />
　田所は、椅子に座ったまま身体を反らして、ぐっと伸びをした。<br />
　隣で例の霊波塔の資料に目を通している橘は、今日はそれとは違う霊波塔の奪還作戦に参加して、先程戻ってきたばかりだ。<br />
　変換装置の細かい設定について意見を交わしたりしていると、工場で作業をしていた隊士たちがひとり、またひとりと出掛ける支度を始めだす。彼らに定時というものはなかったが、ノルマさえ達成すればそれでその日の仕事は終わりなのだ。<br />
　今日はわずかだが賃金が支払われる日なので、皆で町へ繰り出すつもりらしい。どこそこの"おなご"がどうのこうの……という声が聞こえてくる。<br />
「毎回、オンナオンナって、飽きないですねえ……」<br />
　横目で見ながらそう言うと、橘は煙草に火をつけながら言った。<br />
「男なら、当然だろう」<br />
（へえ………）<br />
　気にしてもらえないことは知りつつも、禁煙ですって、と煙をパタパタと手で扇ぐ。<br />
「意外ですね。橘さんがそんな風に言うなんて」<br />
　潔癖なところがあるから、性的なことにはまったく関心がないように思っていた。<br />
「性欲というのは、簡単に飼い慣らせるものじゃないからな」<br />
「えぇー、嘘くさいっすねぇ……」<br />
　随分人間らしいことを言うが、本音だろうか。<br />
　けれど脳裏に、あの仰木高耶を力強く抱き寄せた場面が蘇った。こと恋愛に関しては、意外に情熱的なのかもしれない。<br />
　赤面しそうになって、田所は煙ではなく自分の顔をパタパタと扇いだ。<br />
「何だ？」<br />
「……いえ。なんかうらやましいなあって。別に女の子が嫌いなわけじゃないんですけど、あそこまでテンションあげたりできないから」<br />
　お祭りのように騒いでいる工場員たちを見ながら、田所は思う。<br />
　女性は好きだ。彼女が出来たことだって、幾度かはある。けれど、いわゆるラブラブって感じまで盛り上がった関係になったことはなかった。家族のような気心の知れた関係というわけでもない。どこか他人行儀な関係しか築けなかった。<br />
「まあ、俺みたいな奴が相手じゃ、女の子も盛り上がりようがないって話ですよ」<br />
　卑屈になる田所に、橘は二本目の煙草に火をつけながら言った。<br />
「相手のことは関係ない。自分がどれだけ相手を想えるか、だろう」<br />
「………例え邪険にされても想い続けろっていうんですか」<br />
「嫌われても、貶められても、憎まれても」<br />
「<span class="line">─────</span>」<br />
　やはり、橘はかなり情熱的な面があるらしい。<br />
「相手に面倒くさいって思われそうで嫌だなあ……」<br />
「面倒くさいと思っているのはお前だろう？想い続ける事と諦める事の利点を比べて、諦めを取っただけだ。そうやって、計算で動いているうちは特別な関係なんて築けない」<br />
　橘は煙を吐き出した。<br />
「本当に欲しいものを目の前にしたら、理屈なんて全部吹っ飛ぶ」<br />
　あ、それだ、と思った。<br />
（多分、俺にはそれが欠けてるんだ）<br />
　Ｈしたくてしょうがないとか、絶対誰にも渡したくないとか、そうやって誰かを特別に思ったり執着したりしない。相手が物でも出来事でも何でもそうだ。<br />
　どうしても欲しいものなんてないし、絶対に受け入れられないこともない<br />
　いつもなんとなく幸福で、なんとなく不安だった。<br />
「………それが不満だったんです、ずっと」<br />
　だから留まったのだ。この世に。<br />
　しかし、不満がわかったところで解決策がすぐに導き出せるわけでもない。<br />
　自分にとっての"理想の特別"。そういうものが、この世の中のどこかにあるのだろうか。<br />
「これからは探せばいい。赤鯨衆とは、そういう場所なんだろう」<br />
　煙草を灰皿に押し付けながら、橘は言った。<br />
　確かにそうだ。時間はあるのだから焦る必要はない。<br />
　けれどここ最近、自分はその答えに急激に近づいて行っている気がする。手が届きそうだと思うと、人はそれを掴みたくてしょうがなくなるものなのだ。<br />
「……………」<br />
　ぼんやりとする田所に、<br />
「明日、朝一でもう一度試運転をする」」<br />
　橘はそう言って話を打ち切った。<br />
「とりあえずのところはこのまま進めていい」<br />
「わかりました。………じゃあ少し、休んできたらどうですか」<br />
　自分以上に眠っていない橘は、寝不足のせいで心なしか眼が赤い。<br />
「……そうだな」<br />
　それでも出かける予定があるからと、一時間後に起こすように言って、橘は仮眠室へと消えた。<br />
（<span class="line">───</span>忙しい人だ）<br />
　そして、田所が再びＰＣ画面と向き合っておよそ一時間。<br />
　そろそろ起こしに行くかというところで、思わぬ客が工場に現れた。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%94</link>
    <pubDate>Fri, 19 Feb 2010 11:28:33 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/14</guid>
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    <item>
    <title>１３</title>
    <description>
    <![CDATA[　橘の車で移動するために駐車場へ向かっている途中で、田所は自分の上着ポケットのふくらみに気づいた。<br />
「そういえばこれ、天満って人から届いてましたよ」<br />
　取り出して、橘に差し出す。出掛けに届いたから、渡そうと思ってそのまま持ってきていたのだ。<br />
「ああ……」<br />
　その小さな小包を受け取って少し考えていた橘は、<br />
「ちょっと出てくる。先に戻っていてくれ」<br />
と言うと、ひとりでスタスタと行ってしまった。<br />
「はーい……」<br />
　仕方なく田所はそれを見送る。そして、くるりと踵を返した。<br />
（よし。久々に食堂で飯食ってから帰ろうっと）<br />
　工場へ戻ってしまえばどうせまた缶詰状態になってしまうのだ。せっかくだからその前に、うまいものでも食べて精をつけておきたい。<br />
　ところが、今度はズボンの後ろポケットの封筒に気付いてしまった。<br />
（げ、これも渡しとかなきゃ）<br />
　今度の品は、医師の中川掃部からの封書だ。<br />
　赤字で"至急"と書いてあるから、よほど急ぎのものなのだろう。<br />
　結構頻繁に連絡のある中川と橘の接点はよくは知らなかったが、大抵自分にはよくわからないむずかしい話をしているから、何かふたりで進めている計画でもあるのかもしれない。<br />
　とりあえずその封筒を渡そうと、田所は橘の後を追った。<br />
　もう出発してしまったかもと思いつつ、駐車場で橘の車を探してみる。<br />
　すると、車はまだそこにあった。中には誰も乗っていない。<br />
（あれ？どこいったんだろ）<br />
　てっきり車でどこかに行ったものだと思っていた田所だったが、もしかしたら小源太にでも会いに行ったのかもしれない。<br />
　すぐに引き返そうとすると、建物の裏手のほうから話し声が聞こえてきた。<br />
　よくよく聞いてみると、その声が今まさに探していた橘の声だったから、何故そんなところにいるのか疑問に思いつつも向かってみる。<br />
　建物の陰から覗き込むようにすると、確かに橘はいた。<br />
　が、一緒にいるのが仰木高耶だったから、田所は慌てて身を隠した。<br />
　今はちょっと気まずいから、出来れば顔を合わせたくない。<br />
　話が終わってから封筒を渡そうと思い、しばらくその場で待つことにした。<br />
　ふたりとも田所がいることに気づいていないせいか、話すトーンがいつもとは随分と違う。ふたりからは見えないよう角度に気をつけながら、田所は頭だけをだしてふたりの様子を伺った。<br />
（いったい、なに話してんだ？）<br />
　興味深々で聞き耳を立て始めた田所の目に、橘が先程の小包をポケットから取り出すのが見えた。<br />
　覆っていた茶色い紙をビリビリと剥がす。<br />
　すると。<br />
（あ……！）<br />
　それは、田所でも知っているような有名チョコレートブランドの菓子箱だった。<br />
「どうしたんだ、こんなもの」<br />
　呆れたような仰木高耶の声が聞こえてくる。<br />
「調達部にコネがあるんです」<br />
　そう答えた橘は、普段は絶対に見せないような笑みを浮かべてその箱を差し出した。<br />
「年に一度だけの、聖なる日でしょう？」<br />
「………馬鹿だな」<br />
　仕方なく箱を受け取って、仰木高耶はその場で菓子箱を開けだす。<br />
「ここで開けるんですか？」<br />
「こんなもの、持って帰って誰かに見つかったらどうする」<br />
「バレンタインなんて、知る者はいませんよ」<br />
「楢崎がいるだろう、楢崎が」<br />
　包装紙を破り、ぱか、と蓋を開けた仰木高耶は、そのこげ茶色の粒に目を細める。<br />
「たまにはいいよな、甘いもんも」<br />
　一粒だけを手に取った。機嫌を良くする仰木高耶に、橘はくすりと笑う。<br />
「怒られるかと思ってました」<br />
「……そう思うんならするな」<br />
　仰木高耶はチョコレートを手にしたまま、顔を上げた。<br />
　その口元に、どきりとするような妖しい笑みを浮かべる。<br />
　瞳が、燃えるように煌いた。<br />
「食わせろよ」<br />
　そう言ってチョコレートを橘の唇に押し付けると、顔を寄せてそれに噛み付いた。<br />
（………え？）<br />
　驚きのあまり、呼吸がとまる。<br />
　目の前で行なわれていることの意味が、すぐには理解できなかった。<br />
　きっと田所と同じくらい驚いた橘も、しばらくはされるがままになっていたが、すぐにその筋肉質な腕で仰木高耶の腰を荒々しく引き寄せる。<br />
「んっ……」<br />
　喉から漏れたような甘い声が聞こえてきて、我に返った田所は慌ててその場を離れた。<br />
（どっっ、どーゆーことっ？！どーゆーことっ？！）<br />
　パニックになって走っているうちに、食堂に寄ることもすっかり忘れて工場へと到着してしまった。<br />
　なんとか心を落ち着けようと、いつもの自分の椅子に座ってみる。けれど動悸は全く静まる気配がなかった。<br />
　ＰＣを立ち上げて画面に向かってみるが、思考がストップしてしまったように何も考えられない。脳内ではずっと、先程の光景がひたすらリプレイされている。<br />
　なんとかそれを消し去ろうと悪戦苦闘しているうちに、当の橘が工場へと戻ってきてしまった。<br />
　とりあえず、こちらには気づいていなかったはず。普通にしていればいいのだ。<br />
「おかえりなさーい」<br />
　けれど、普通に言ったつもりがどこかぎこちない。<br />
（………駄目だ）<br />
　動悸はやはり治まらない。妙な気恥ずかしさを感じて、橘の顔も見られない。<br />
　なんとかやり過ごそうとパタパタとでたらめにキーボードを叩いて集中しているフリをした。<br />
　が、橘は田所の背後から言った。<br />
<br />
「他言するな」<br />
<br />
　心臓が、飛び出るかと思った。<br />
「…………ぁぃ」<br />
　小さな声で返事をする。<br />
（やべえ、俺今たぶん顔真っ赤だ）<br />
　何故密会を見られた本人でなく、自分がこんなに動揺しているのだろうと疑問に思いながら、田所は両掌で顔を覆った。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%93</link>
    <pubDate>Sun, 14 Feb 2010 14:17:46 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/13</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１２</title>
    <description>
    <![CDATA[「田所」<br />
　会議室を出て、ずかずかと廊下を歩いていると、すぐに橘が後から追ってきた。<br />
　手には資料の束を抱えている。たぶん、伊達方の霊波塔に関する資料だろう。<br />
　田所は立ち止まることもせずに言った。<br />
「三日でやるなんて。また得意のはったりですか」<br />
　気持ちが収まりきらなくて思わず睨みつけるようになってしまったが、橘は隣を歩きながら軽く眉をあげただけだった。<br />
「何も言わなかったんだから、お前も共犯だ。そう苛つくな」<br />
「………すいません」<br />
　窘められて、はあ～と田所は大きくため息をつく。<br />
「けど、あんな言い方しなくたって。"作戦は決定事項だ"なんて」<br />
　もちろん言い方が気に入らないから怒っている訳ではない。そんな田所のプライドを、橘も解ったみたいだ。<br />
「お前が言ったことはすべて、あのひとだってわかっているさ」<br />
　さっきの挑戦するような目つきはすっかり仕舞いこんで、橘は言った。<br />
「それでもやれと言うのがあのひとだ」<br />
「……わがままですね」<br />
　田所が拗ねたように言うと、<br />
「そうだな」<br />
と笑みまで浮かべている。<br />
「橘さんは悔しくないんですか？寝る間も惜しんでがんばってたってのに。装置が壊れちゃったらそれが全部水の泡なんですよ？」<br />
　敵方に破壊されるか、変換の許容量を超えて粉々になるか、どっちにしろ全てが台無しだ。<br />
「前にも言ったが、過去の行為が無駄になるということはないと思ってる。ただ、もし装置が壊れるようなことになれば、行き場を無くしたエネルギーが暴走して周囲に被害を与えるだけでなく、赤鯨衆の将来にとっても痛手となるだろうな」<br />
　つまり、今まで装置のためにがんばってきたことも今回の作戦もすべて、意味がないどころか酷く有害な行いになってしまう。<br />
「そうさせるつもりはない」<br />
　言い切った橘は、それに、と続けた。<br />
「あのひとが護ると言ったんだ。世界で一番信頼できる約束だ」<br />
　田所は思わず、瞬きをした。<br />
（ものすごく信用してるんだな……）<br />
　橘だけでなく、仰木高耶のまわりにいる人間は皆そうだ。必ず彼には絶対的な信頼を置いている。<br />
　そう言ったら、<br />
「"たらし"だからな」<br />
と言われた。<br />
「え？」<br />
「善し悪しにかかわらず、彼は人に特別な感情を抱かせる天才だ」<br />
　足を止めた橘が、会議室の方を振り返る。<br />
「稀有なひとなんだ」<br />
　表情はいつもと大して変わらない。けれどその言葉には橘の感情が詰め込まれている気がして、妙に田所の心に響いた。<br />
　橘も、仰木高耶に特別な感情を抱いているのだろうか。<br />
　かくいう自分だって、仰木高耶には他の人間とは違う感情を抱いているには違いない。決していい感情ではないが。<br />
（だから、善し悪しにかかわらず、か）<br />
　どんな人間からも常に特別扱いだなんて、自分と仰木高耶はまるで正反対なんだな、と気付いた。<br />
　けれど決して仰木高耶になりたいとは思わなかった。自分は万人に慕われたいわけじゃないようだ。<br />
（特別な人生を手に入れたかったはずなのに）<br />
　ならば自分の理想の特別とは、いったい何なのだろう。<br />
　考え込む田所に、橘は資料を手渡しながら言った。<br />
「お前こそあんなことを言って。戦闘経験はないんだろう？」<br />
「大丈夫ですよ。"Ｗ・ＹＯＳＨＩ"ってことでがんばりましょう」<br />
　ずしり、と思い資料を片手で受け取って、もう片方の手で拳を握ってみせたら、橘は意味がわからない、という顔でこちらを見てきた。<br />
「ほら、義明と好浩でダブル・ヨシ」<br />
「ヨシヒロ？」<br />
「………俺の名前っす。ひでぇ……」<br />
　仰木高耶ですら田所の苗字を知っていたのに、橘は自分の名前を知らなかったらしい。<br />
　少々ショック気味の田所の隣で、橘は感慨深げに言った。<br />
「そうか……。兄と同じ名だ」<br />
「へぇ、おにーさんいんすか」<br />
　そんな風に答えて、ふと自分の家族のことを思い出す。<br />
　今頃どんな思いをしているだろうか。<br />
　両親など、とにかく真面目だけが取り柄のような人たちだというのに、不運続きで本当にかわいそうに思う。借金まみれで廃業し、やっと立ち直りかけてきたところで長男が事故死。しかも犯人の身体に田所が憑依している訳だから、たぶんひき逃げ扱いで犯人は捕まっていないことになっているだろう。<br />
（親不幸でごめんなさい）<br />
　田所が心の中で頭を下げていると、橘は、とりあえず工場へ戻ろう、と言った。<br />
「明日の午後にはもう一度試運転を行うから、それまでに計算を終えておけ」<br />
　簡単に言ってくれるが、それをやるのは田所なのだ。<br />
　けれどなんとなく、やる気らしきものが湧き上がってきていた。<br />
（こうなったら、仰木高耶の目にモノを見せてやる）<br />
「なんだったら、失敗するようにわざと細工でもしておきましょうか」<br />
「そんなことをして爆発でもしたらどうする。巻き添えをくって死ぬぞ」<br />
　橘が真面目な顔で言ってくるから、田所は<br />
「もう死んでます」<br />
と死人にはお馴染みのギャクを言った。なのに、<br />
「………そうだな」<br />
　橘からは気のない答えしか返ってこなかった。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%92</link>
    <pubDate>Fri, 12 Feb 2010 11:10:06 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/12</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１１</title>
    <description>
    <![CDATA[　それはいつもの通り、伊達方の霊波塔の占有作戦会議だった。<br />
　今回は宿毛の隊士だけでは人手が足りないからと、四万十の前線からも助っ人を呼ぶのだそうだ。<br />
　けれどそれだけなら田所が呼ばれたりはしない。<br />
「霊電力変換装置を？」<br />
「そうだ」<br />
　陸上戦ということで小源太は作戦の指揮を全て仰木高耶に任せているらしく、会議は終始彼主導で進められた。<br />
　若者らしいよく通る声で説明されたその話を要約すると、つまりはこうだった。<br />
　今度の作戦で狙う霊波塔は地理上とても重要な地点あり、どうしても抑えておきたい。けれど獲られまいとしているのは伊達方も同じで、護りに他の霊波塔とは違う策を講じていることが調査をしてみたわかった。<br />
　ひとつは特殊な結界が張ってあること。それはその様式が特殊すぎて、まだ破る方法すら見つかっていない。<br />
　もうひとつは、地下に貯水池ならぬ貯霊池が備わっていること。特殊な結界はこの貯霊池を動力源としているため、送霊線を断ってみたところで何の影響も受けずにいられるらしい。せっかく霊力網を分断しても、その結界を破るのにてこずっているうちにまた送霊力線が復活してしまうのだそうだ。<br />
　そこで、仰木高耶はこんな作戦を立てた。<br />
　断ち切った送霊力線を霊電力変換装置に繋ぎ、強制的に電力に変換させることによって貯霊池の霊力を干上げさせてしまおうというのだ。そうすれば結界も弱まり、破ることが可能になるだろう、と。<br />
「無茶です」<br />
　何も考えずにそう口走ってしまった田所は、仰木高耶の強い視線をぶつけられて思わず怯んだ。<br />
「無茶は承知の上だ」<br />
　仰木高耶は調子を変えない。田所の意見など最初から聞き入れるつもりはないようだ。<br />
　その態度にカチンときた。<br />
「ですけど、あの装置は『シバテンの首』に合わせて調節を重ねたものです。いきなり他のモノに繋いでも対応できません。だいたい変換した電力はどうするんです？」<br />
「送電線を繋いで近くの変電所へ流すことになる」<br />
「そんなの危険すぎます」<br />
　相手が仰木高耶であることも忘れて、田所は言った。<br />
「失礼ですけど、霊力も電力も扱いがどれほどむずかしいかわかってないんじゃないですか。たとえその霊波塔の霊力をまるまる変換するとして、通常なら準備に一ヶ月はかかるし、実際の変換作業だって一日がかりでやるような規模です。戦闘の真っ只中でいきなり本番なんてとても出来ることじゃありません」<br />
　正直、あの『シバテンの首』相手の調整にすらひーこら言っているのだ。<br />
「それに、前線にあんな大きな装置を持っていったら、敵の格好の標的になるんじゃないんですか」<br />
　ここ何ヶ月も自分達が苦労して作り上げてきたものだというのことが、わかっているのだろうか。<br />
（壊されたらどうすんだよ）<br />
　けれど仰木高耶ははっきりと言い放った。<br />
「装置はオレが護りきるから問題ない」<br />
　全く揺らぐ気配がない。田所は呆れるしかなかった。<br />
（護れなかったらどうすんだよ）<br />
　なんだろう、この感覚。異様に心がむかつく感じ。<br />
　プライドを傷つけられるというのはこういうことなのかもしれない。<br />
　仰木高耶は自分たちのしてきたことを明らかに軽んじている。<br />
　怒りに似たものが、田所の腹の中を駆け巡っていた。<br />
「作戦自体はもう決定事項だ。おまえたちに頼みたいの技術的な問題だけだ」<br />
　仰木高耶は田所たちがここ何ヶ月かで提出した装置関連の報告書の束を示した。<br />
「これだけ強気な報告書を出しておいて、"できない"はないだろう？」<br />
　するとここまでずっと黙っていた橘が、初めて口を開いた。<br />
「……わかりました」<br />
「橘さん！」<br />
　勝手に了承してしまった橘の横顔を田所が振り返ると、いつもの冷静な顔とは少し違っていた。<br />
　挑戦を受けて立つ、いや、どちらかというと挑みかかるような眼をしている。<br />
　その証拠に、準備期間に一週間与えると言った高耶を、<br />
「三日で構いません」<br />
と突っぱねた。<br />
　こうなったらと、負けじと田所も声を張り上げる。<br />
「戦闘には俺も行きます。あんたたちだけに任せておけない」<br />
　そう捨て台詞を残して、田所は席を立った。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Fri, 12 Feb 2010 11:09:13 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/11</guid>
  </item>
    <item>
    <title>１０</title>
    <description>
    <![CDATA[　試運転から数日後、田所は橘に言われて宿毛砦へとやって来ていた。<br />
　もちろん工場の隊士たちは皆この砦に寝泊りしているのだからやって来るという表現はおかしいのだが、田所は最近工場の方にこもりっきりだったから、本当に久しぶりにやって来たのだ。<br />
　するとなんだかいつもとは様子が違った。<br />
　どうやら幹部の誰かが来るらしく、建物の外に迎えの人間が大勢いた。<br />
（芸能人が来るわけでもあるまいし）<br />
　斜に構えつつ橘の姿を探していた田所は、建物から出てくる橘を見つけた。<br />
「橘さん」<br />
　橘も田所の姿を認めて近づいてくる。<br />
「なんだか騒々しいですね。誰が来るのか知ってます？」<br />
　そう尋ねると、<br />
「彼だ」<br />
と、人集りの方を示された。<br />
　振り返ってみるとちょうど１台の車が停まったところで、後部座席からひとりの若者が降りてくる。<br />
（ひぃ～っ！オレ、あの人苦手～っ！）<br />
　それは、四万十方面の軍団長・仰木高耶、その人だった。<br />
　実は田所は、仰木高耶と対面するのはあまり得意ではなかった。<br />
　何故かと問われれば答えようがないのだが、田所の中では非常に怖いと言うイメージが強い。<br />
　橘をアゴで使うからだろうか。<br />
　確かに皆が言うような人を惹きつけるカリスマ性があるのは解るのだ。<br />
　初めて彼に会ったときは、姿を見ただけで単純にびっくりした。人の気概というものはここまで見た目に表れるものなのか、と。ライフゲージというか、「生きる勢い」というものがあるのなら、それが桁違いなのだ、きっと。<br />
（こういう人が普通じゃない生き方をするんだ）<br />
　１００分の１でもいいからあやかりたい、と思ったものだ。<br />
　けれど今は、姿を見るだけで緊張してしまう。<br />
　仰木高耶は人だかりを適当にいなし、建物へ向かおうとした。<br />
　その体制移動の途中で、ちらりとこちらを見る。<br />
　そのせいで、田所は眼が合ってしまった。<br />
　その迫力に思わず物陰に隠れたい気分になる。<br />
　前に眼が怖いと橘に漏らしたときに、"邪眼"のせいではないかと言われたことがあった。<br />
　彼の身体は強い毒に侵されたせいで、視線にも人体に有害な毒素が含まれているのだそうだ。田所の本能がそれを避けたいと思うせいではないかと。<br />
　ああ、そうか、とそのときは思ったのだが。<br />
（本当にそれだけか？）<br />
　隣で全く平気そうにまっすぐと仰木高耶を見ている橘の背後に移動して、彼の視線を避けた。<br />
　橘は怪訝そうに田所を見てくる。<br />
「何だ」<br />
「いえいえ」<br />
　確か身長が１８７cmもあると言っていた。その大きな背中の陰でほっと息をついていると、<br />
「橘、ちょっと来い」<br />
　仰木高耶の声が聞こえてくる。<br />
「はい」<br />
　とてつもなく素直に、橘は返事をした。<br />
　橘が宿毛へ来る前、足摺のほうでふたりは一緒だったらしい。<br />
　互いに現代人同士であるせいか、親しみも感じやすいのかもしれない。<br />
　会えばよく話すふたりの隣で会話を聞く機会も多いのだが、時々会話のスピードについていけなくなることがある。<br />
　ふたりとも理解力があるせいか、聞いている方としては言葉が足りずにわからないことだらけなのだ。<br />
　今も短い言葉をいくつか交わしただけで、橘は仰木の言わんとしていることを飲み込んだようだった。<br />
（変換装置の話？）<br />
　田所が眉をひそめていると、ふいに仰木高耶がこちらを向いた。<br />
「田所」<br />
「……へっ？」<br />
　想定外の事態に返事もできない。<br />
「お前も来い」<br />
「は、はいっ」<br />
　思わず声が裏返ってしまった。今までに名前を呼ばれたことなどなかったからだ。<br />
（俺の名前なんて、知ってたんだ）<br />
　連れだって歩き出すふたりの後を、田所は慌てて追う。<br />
　向かったのは、小源太のいる幹部会議用の部屋だった。]]>
    </description>
    <category>uncommon life</category>
    <link>http://uncommonlife.blog.shinobi.jp/uncommon%20life/%EF%BC%91%EF%BC%90</link>
    <pubDate>Sat, 06 Feb 2010 07:36:53 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">uncommonlife.blog.shinobi.jp://entry/10</guid>
  </item>

    </channel>
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