ア ン コ モ ン ライフ
uncommon life
その男、橘義明は現代人だ。
死霊集団の仲間になった現代人ということだけでもヘンなのに、性格も相当変わっていた。
普段は冷静で表情を崩すこともめったにないが、時折極端に感情的なことを言ったりする。
目的のためには手段を選ばないように見えて、妙なところで筋を通したがる。
このところ毎日のように一緒にいる田所にしてみても、未だに理解できないことの多い男だ。
そして、とにかく忙しい身だった。
いずれある伊達方との海戦への備えも任されつつ、檜垣と何か約束があるらしく霊波塔の奪還もせねばならない。四万十の前線に呼び出されることもしばしばで、現代人であることを利用した潜入作戦の協力要請も来る。
そんな中、何故こんな霊電力変換のプロジェクトなどに関わっているのかというと、檜垣にそう命じられたからだそうだ。橘曰く、休む暇を与えないための上層部の意向、らしい。
まさかそんな嫌がらせみたいなことを、と思うのだが、実は橘は赤鯨衆の花形である遊撃隊の候補にまであがったものの、スパイ容疑をかけられたとかで宿毛に飛ばされてきたいわくつきの男だったから、行動に自由を与えないための激務と言われれば納得できなくもない。
だけど田所は、橘なら出来るだろう、くらいの軽い考えで参加させられたのではないかと思っている。檜垣ならありそうなことだ。
しかしその安易な発想が、大当たりだった。
もともと自分のような落ちこぼれと、術式やら化学式やらのことしか考えていない研究者肌の人間ばかりの霊具開発製造部門にとって、橘は救世主となった。彼が仕事の進め方というものをよく知っていたおかげで、机上の空論だった霊電力変換器を試運転の段階にまで持ってこられたのだと思う。
というかそもそも、田所の特異な能力に気づいたのは橘だったのだ。
例の田所の能力の発見のきっかけとなった潜入捜査に、実は橘も同行していた。
切羽詰った田所が一瞬だけ機器の電源をあげたことに気付き、霊力を扱うことが苦手な田所に自身の《力》を送り込んで発電させるという荒業をやってのけたおかげで、あの任務は果たせることができたのだ。
田所にしてみればそれなりに恩も感じるし、親しい人間のいなさそうな橘の唯一の部下、理解者となるべく、これからも仲良くしていきたいと思っている。
もちろん橘のほうは、そんなことは微塵も思っていないだろうが。
「檜垣さんっ!?待ってましたよ!!」
PCに向かっていた田所の隣で電話が鳴り出して、また長土からかと嫌々ながら出てみたら、待ちに待った試運転許可の連絡だった。
「わかりました、すぐ始めますっ!」
勢いよく言って受話器を置いた田所は、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
と、さっきまで田所をからかっていた連中が、そばへとやってきた。
「とうとう試運転かぁ」
「また人手が要るがやないがか?」
口々に言う彼らは、変換器の製作段階からよく手伝いをかってでてくれた。
なんだかんだ言って彼らも、毎日同じ仕事ばかりでは飽きてしまうのだろう。
「あー、すいません。じゃあまたお願いしてもいいですか?」
田所がそういうと、皆、大きく頷いた。
「よし、わしは車を表にまわしちょく」
「わしは工具の準備をしちゅうきに」
準備を始める皆の様子を見ながら田所は、まずは橘を起こさなくてはと思い、仮眠室へ向かうことにした。
便所や簡易シャワー室、仮眠室などのある別棟へは、渡り廊下で繋がっている。
その渡り廊下を抜けて別棟へ入ると建物の一番奥まったところにあるのが、工場の皆が共同で使っている仮眠室だ。
田所は軽くノックをした後で、その扉を開いた。
死霊集団の仲間になった現代人ということだけでもヘンなのに、性格も相当変わっていた。
普段は冷静で表情を崩すこともめったにないが、時折極端に感情的なことを言ったりする。
目的のためには手段を選ばないように見えて、妙なところで筋を通したがる。
このところ毎日のように一緒にいる田所にしてみても、未だに理解できないことの多い男だ。
そして、とにかく忙しい身だった。
いずれある伊達方との海戦への備えも任されつつ、檜垣と何か約束があるらしく霊波塔の奪還もせねばならない。四万十の前線に呼び出されることもしばしばで、現代人であることを利用した潜入作戦の協力要請も来る。
そんな中、何故こんな霊電力変換のプロジェクトなどに関わっているのかというと、檜垣にそう命じられたからだそうだ。橘曰く、休む暇を与えないための上層部の意向、らしい。
まさかそんな嫌がらせみたいなことを、と思うのだが、実は橘は赤鯨衆の花形である遊撃隊の候補にまであがったものの、スパイ容疑をかけられたとかで宿毛に飛ばされてきたいわくつきの男だったから、行動に自由を与えないための激務と言われれば納得できなくもない。
だけど田所は、橘なら出来るだろう、くらいの軽い考えで参加させられたのではないかと思っている。檜垣ならありそうなことだ。
しかしその安易な発想が、大当たりだった。
もともと自分のような落ちこぼれと、術式やら化学式やらのことしか考えていない研究者肌の人間ばかりの霊具開発製造部門にとって、橘は救世主となった。彼が仕事の進め方というものをよく知っていたおかげで、机上の空論だった霊電力変換器を試運転の段階にまで持ってこられたのだと思う。
というかそもそも、田所の特異な能力に気づいたのは橘だったのだ。
例の田所の能力の発見のきっかけとなった潜入捜査に、実は橘も同行していた。
切羽詰った田所が一瞬だけ機器の電源をあげたことに気付き、霊力を扱うことが苦手な田所に自身の《力》を送り込んで発電させるという荒業をやってのけたおかげで、あの任務は果たせることができたのだ。
田所にしてみればそれなりに恩も感じるし、親しい人間のいなさそうな橘の唯一の部下、理解者となるべく、これからも仲良くしていきたいと思っている。
もちろん橘のほうは、そんなことは微塵も思っていないだろうが。
「檜垣さんっ!?待ってましたよ!!」
PCに向かっていた田所の隣で電話が鳴り出して、また長土からかと嫌々ながら出てみたら、待ちに待った試運転許可の連絡だった。
「わかりました、すぐ始めますっ!」
勢いよく言って受話器を置いた田所は、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。
と、さっきまで田所をからかっていた連中が、そばへとやってきた。
「とうとう試運転かぁ」
「また人手が要るがやないがか?」
口々に言う彼らは、変換器の製作段階からよく手伝いをかってでてくれた。
なんだかんだ言って彼らも、毎日同じ仕事ばかりでは飽きてしまうのだろう。
「あー、すいません。じゃあまたお願いしてもいいですか?」
田所がそういうと、皆、大きく頷いた。
「よし、わしは車を表にまわしちょく」
「わしは工具の準備をしちゅうきに」
準備を始める皆の様子を見ながら田所は、まずは橘を起こさなくてはと思い、仮眠室へ向かうことにした。
便所や簡易シャワー室、仮眠室などのある別棟へは、渡り廊下で繋がっている。
その渡り廊下を抜けて別棟へ入ると建物の一番奥まったところにあるのが、工場の皆が共同で使っている仮眠室だ。
田所は軽くノックをした後で、その扉を開いた。
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