ア ン コ モ ン ライフ
uncommon life
試運転から数日後、田所は橘に言われて宿毛砦へとやって来ていた。
もちろん工場の隊士たちは皆この砦に寝泊りしているのだからやって来るという表現はおかしいのだが、田所は最近工場の方にこもりっきりだったから、本当に久しぶりにやって来たのだ。
するとなんだかいつもとは様子が違った。
どうやら幹部の誰かが来るらしく、建物の外に迎えの人間が大勢いた。
(芸能人が来るわけでもあるまいし)
斜に構えつつ橘の姿を探していた田所は、建物から出てくる橘を見つけた。
「橘さん」
橘も田所の姿を認めて近づいてくる。
「なんだか騒々しいですね。誰が来るのか知ってます?」
そう尋ねると、
「彼だ」
と、人集りの方を示された。
振り返ってみるとちょうど1台の車が停まったところで、後部座席からひとりの若者が降りてくる。
(ひぃ~っ!オレ、あの人苦手~っ!)
それは、四万十方面の軍団長・仰木高耶、その人だった。
実は田所は、仰木高耶と対面するのはあまり得意ではなかった。
何故かと問われれば答えようがないのだが、田所の中では非常に怖いと言うイメージが強い。
橘をアゴで使うからだろうか。
確かに皆が言うような人を惹きつけるカリスマ性があるのは解るのだ。
初めて彼に会ったときは、姿を見ただけで単純にびっくりした。人の気概というものはここまで見た目に表れるものなのか、と。ライフゲージというか、「生きる勢い」というものがあるのなら、それが桁違いなのだ、きっと。
(こういう人が普通じゃない生き方をするんだ)
100分の1でもいいからあやかりたい、と思ったものだ。
けれど今は、姿を見るだけで緊張してしまう。
仰木高耶は人だかりを適当にいなし、建物へ向かおうとした。
その体制移動の途中で、ちらりとこちらを見る。
そのせいで、田所は眼が合ってしまった。
その迫力に思わず物陰に隠れたい気分になる。
前に眼が怖いと橘に漏らしたときに、"邪眼"のせいではないかと言われたことがあった。
彼の身体は強い毒に侵されたせいで、視線にも人体に有害な毒素が含まれているのだそうだ。田所の本能がそれを避けたいと思うせいではないかと。
ああ、そうか、とそのときは思ったのだが。
(本当にそれだけか?)
隣で全く平気そうにまっすぐと仰木高耶を見ている橘の背後に移動して、彼の視線を避けた。
橘は怪訝そうに田所を見てくる。
「何だ」
「いえいえ」
確か身長が187cmもあると言っていた。その大きな背中の陰でほっと息をついていると、
「橘、ちょっと来い」
仰木高耶の声が聞こえてくる。
「はい」
とてつもなく素直に、橘は返事をした。
橘が宿毛へ来る前、足摺のほうでふたりは一緒だったらしい。
互いに現代人同士であるせいか、親しみも感じやすいのかもしれない。
会えばよく話すふたりの隣で会話を聞く機会も多いのだが、時々会話のスピードについていけなくなることがある。
ふたりとも理解力があるせいか、聞いている方としては言葉が足りずにわからないことだらけなのだ。
今も短い言葉をいくつか交わしただけで、橘は仰木の言わんとしていることを飲み込んだようだった。
(変換装置の話?)
田所が眉をひそめていると、ふいに仰木高耶がこちらを向いた。
「田所」
「……へっ?」
想定外の事態に返事もできない。
「お前も来い」
「は、はいっ」
思わず声が裏返ってしまった。今までに名前を呼ばれたことなどなかったからだ。
(俺の名前なんて、知ってたんだ)
連れだって歩き出すふたりの後を、田所は慌てて追う。
向かったのは、小源太のいる幹部会議用の部屋だった。
もちろん工場の隊士たちは皆この砦に寝泊りしているのだからやって来るという表現はおかしいのだが、田所は最近工場の方にこもりっきりだったから、本当に久しぶりにやって来たのだ。
するとなんだかいつもとは様子が違った。
どうやら幹部の誰かが来るらしく、建物の外に迎えの人間が大勢いた。
(芸能人が来るわけでもあるまいし)
斜に構えつつ橘の姿を探していた田所は、建物から出てくる橘を見つけた。
「橘さん」
橘も田所の姿を認めて近づいてくる。
「なんだか騒々しいですね。誰が来るのか知ってます?」
そう尋ねると、
「彼だ」
と、人集りの方を示された。
振り返ってみるとちょうど1台の車が停まったところで、後部座席からひとりの若者が降りてくる。
(ひぃ~っ!オレ、あの人苦手~っ!)
それは、四万十方面の軍団長・仰木高耶、その人だった。
実は田所は、仰木高耶と対面するのはあまり得意ではなかった。
何故かと問われれば答えようがないのだが、田所の中では非常に怖いと言うイメージが強い。
橘をアゴで使うからだろうか。
確かに皆が言うような人を惹きつけるカリスマ性があるのは解るのだ。
初めて彼に会ったときは、姿を見ただけで単純にびっくりした。人の気概というものはここまで見た目に表れるものなのか、と。ライフゲージというか、「生きる勢い」というものがあるのなら、それが桁違いなのだ、きっと。
(こういう人が普通じゃない生き方をするんだ)
100分の1でもいいからあやかりたい、と思ったものだ。
けれど今は、姿を見るだけで緊張してしまう。
仰木高耶は人だかりを適当にいなし、建物へ向かおうとした。
その体制移動の途中で、ちらりとこちらを見る。
そのせいで、田所は眼が合ってしまった。
その迫力に思わず物陰に隠れたい気分になる。
前に眼が怖いと橘に漏らしたときに、"邪眼"のせいではないかと言われたことがあった。
彼の身体は強い毒に侵されたせいで、視線にも人体に有害な毒素が含まれているのだそうだ。田所の本能がそれを避けたいと思うせいではないかと。
ああ、そうか、とそのときは思ったのだが。
(本当にそれだけか?)
隣で全く平気そうにまっすぐと仰木高耶を見ている橘の背後に移動して、彼の視線を避けた。
橘は怪訝そうに田所を見てくる。
「何だ」
「いえいえ」
確か身長が187cmもあると言っていた。その大きな背中の陰でほっと息をついていると、
「橘、ちょっと来い」
仰木高耶の声が聞こえてくる。
「はい」
とてつもなく素直に、橘は返事をした。
橘が宿毛へ来る前、足摺のほうでふたりは一緒だったらしい。
互いに現代人同士であるせいか、親しみも感じやすいのかもしれない。
会えばよく話すふたりの隣で会話を聞く機会も多いのだが、時々会話のスピードについていけなくなることがある。
ふたりとも理解力があるせいか、聞いている方としては言葉が足りずにわからないことだらけなのだ。
今も短い言葉をいくつか交わしただけで、橘は仰木の言わんとしていることを飲み込んだようだった。
(変換装置の話?)
田所が眉をひそめていると、ふいに仰木高耶がこちらを向いた。
「田所」
「……へっ?」
想定外の事態に返事もできない。
「お前も来い」
「は、はいっ」
思わず声が裏返ってしまった。今までに名前を呼ばれたことなどなかったからだ。
(俺の名前なんて、知ってたんだ)
連れだって歩き出すふたりの後を、田所は慌てて追う。
向かったのは、小源太のいる幹部会議用の部屋だった。
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